*夜遊*


 その夜、才蔵は三日ぶりのまともな睡眠にありつけるはずだった。他国への偵察にアナスタシアと佐助が行ってしまったせいで、城の警備を一手に担っていたのだ。勿論、他の勇士もいた。だが、警備を真剣に出来る者は片手で到底足りない人数だ。
 夕刻前、ようやく佐助が戻ってきたので、交代して先に休みを貰ったのだ。流石に、眠らずの番は疲れが溜まっている。
 なのに、今のこの状況は何だ?警戒を怠っていたつもりはない。城内だからと言って、気を抜いたりもしていない。けれど、比較的近くで馴染みのある気配だから、自分の警戒に引っかからなかったのか、或いはそれほどに疲労していたのか………
 今、才蔵の腹の上に鎌之介が馬乗りになった状態で、見下ろしている。そして、何故か才蔵の両腕は縛り上げられて、普段才蔵が使用している苦無で、両腕を縛った縄は畳に縫い付けられていた。
 微かな、障子から漏れる月明かりでも良く目立つ紅い髪が揺れる。
「さーいぞ」
「んだよ?」
「遊ぼうぜ」
「っざけんな。俺は眠ぃんだよ。寝かせろ」
 鎌之介が、どこか楽しそうな、恍惚としたような表情をしている時は、危険だと知っている。何をしでかすかわからない。血を見たいのか、傷つけたいのか、壊したいのか、分からない。
 しかし、今日は、それらとは少し、雰囲気が違うようだった。
 鎌之介の唇が、ゆるりと弧を描く。
「いいぜ。才蔵は寝てて。全部、俺がする」
 言うなり、鎌之介は才蔵の履いている忍袴の帯を解いた。


 やっぱり碌なことじゃなかった………しかも、この状況は大変まずい。
 一体、何処でこんなことを覚えてきたんだと、怒鳴りつけてやりたい気分だったが、正直そんな余計なことに使う体力は、ない。しかも、現在進行形で体力を奪われ続けているのだから。
 溜息ではなく、耐えるための声が、才蔵の口から零れる。見ないようにしよう、と思っても到底見ないではいられず、視線が自然と下方へ向けられる。
 そこには、紅い髪がある。そして、小さな唇から覗いた赤い舌が、才蔵の下腹部にあるものを舐め、口に含み、しゃぶっている。
 それは、些細な刺激で硬くなり、そそり立つように上を向いている。
 縛られた腕の縄を切ろうとしても、まだ少し時間がかかりそうだった。
 もうどうにでもなれ、と思っていると、ようやく頭が上がり、解放される。
 だが、鎌之介が此処で終わりにするわけがない、と才蔵には分かっていた。そして、案の定、鎌之介は着物を着たまま、才蔵の腹の上へ両手を置き、ゆっくりと、直前まで自分が口に銜えていた才蔵のものを、自分の中へ受け入れていく。
「んんぅっ…………はっ………」
 腹に置かれた細い両腕は震えている。そして、ゆっくりと腰が落とされていく。
「はぁっ………あ〜、全部、はいったぁ」
「っの、馬鹿!」
「才蔵、気持ちいいか?」
「………不本意だけどな」
 疲れも手伝って、正直欲は体に溜まっていた。それを発散させてくれると言うのなら、願ってもないことだが、このやりようは一方的過ぎて、気に食わない。
「おい、これを外せ」
 視線だけで、頭上の畳に縫い付けられた手首を示す。だが、鎌之介は左右に首を振り、口角を上げて笑った。
「だぁ〜め。今日は俺が楽しむ日だから」
「お前、酒でも呑んでんのか?」
「素面だぜ?」
「素面でそれか。本当に碌でもねぇ女だな」
「今更」
 音が鳴るほど歯を噛み締めても、鎌之介は意にも介さない。これは、とっとと腕を縛っている縄を引き千切る必要がある、と才蔵は睨むように鎌之介を見上げた。


 胸が豊かなわけでも、豊満な体つきをしているわけでもない、正直、ただ細いだけの鎌之介の体に、才蔵は期待していなかった。けれど、それは、最初だけだった。
 戯れに、悪戯にと一度寝たが最後、あれよあれよと深みに嵌り、今ではこれだ。忍が女に籠絡されてどうするんだ、とは思うが、相手は素人同然、どころか、自分を女と認識している部分すら薄い相手だ。
 そんな相手が、一つ、また一つと快楽を得ていく姿は楽しいし、それを自分が与えているのだと思えば、悪い気はしないのだが………だが、しかし、これは流石にどうにかする必要があるだろう。
 簡単に快楽に負け、才蔵が放ったものが、今鎌之介の中にある。そして、繋がっていた場所からは、少なからず溢れ出した白く濁ったものが零れだしている。
 普段であれば、大抵鎌之介が先に眠りに落ちる。そのせいで、才蔵があれこれと後始末をしているのだが、恐らく、鎌之介がしげしげとそれを見、触れるのは珍しい。
「才蔵さ、いつもこれ出してるよな?」
「ああ………って、触るな!」
「ん〜?俺、あんま見たこと無い」
 当たり前だ。後始末はこっちがしているのだから。他の人間に知られたくない、というのもあって、始末は念入りにしている。それでも、敏い相手には知られているが………
 零れたそれを手に取り、眺めていたかと思うと、途端、鎌之介は指を口に含んだ。
「ばっ、出せ!」
 まだそんなことは教えてない!と慌てた才蔵は勢いで体を起こし、その反動で、苦無が吹き飛ぶように抜け、縄も千切れた。
「あ………あー!何で外してんだよ!」
「当たり前だ、この馬鹿!」
 言いながら、一発頭を引っ叩き、手近にあった手拭いで汚れた指を拭く。
「何か、あんまり美味しくなかった」
「喰いもんじゃねぇんだよ。何でもほいほい口に入れるな。ガキか、てめぇは」
 どこか不服そうな鎌之介の体を腹の上から退かし、一つ溜息をついた才蔵は、手首に残った縄の残骸を引きちぎって放ると、鎌之介の着物の帯を解いた。
「これで終わりじゃねぇよな、鎌之介?」
「へ?」
 わかってなさそうな鎌之介の両手首を、才蔵は素早く帯できつく縛り、細い体を押し倒した。


 結局、一睡も出来なかった才蔵は重い体を無理矢理に起こし、布団から出た。布団の中には、目に毒な白い身体が横たわっている。
 何はともあれ、後始末をしなくては。そういう認識が全くない鎌之介は、そのまま自室へ戻る可能性がある。最悪、半ば着物を着崩して引きずったような状態のまま。そんな気だるげな姿を誰かに見られたら、ろくでもないことが起きるのは必至だ。
 襖を開け、ひんやりとした板張りの廊下へ足を下ろすと、少しばかり頭がはっきりするような心持だった。
「おお、才蔵、丁度良いところに………ってお前、目の下の隈が凄いぞ?」
「あぁ?」
 軽快な足取りで近づいてきた幸村が部屋へ辿り着く前に、襖を後ろ手に閉める。
「何だ、仮眠を取ったろう?」
「何でもねぇよ」
 頭を掻きながら無愛想に答え、擦れ違おうとすると、ばさりと扇が広げられた。
「新しい仕事だ。偵察を頼みたい。どうせだから、二人で行って来い」
「あ?二人?」
「そう。二人で、だ。眼が覚めたら連れて行って来い。二日程で戻れよ?」
「ちょ、おい、待てよ、おっさん!」
「励みすぎも程々にしろよ」
「知った風な口きいてんな!」
 叫んだ才蔵の声は、幸村の仰ぐ扇の起こす風で叩き落とされたように見えた。







ビッチな感じの鎌ちゃんが書きたかった。ただそれだけの話です。
夜遊びっていうか、鎌ちゃんが楽しいだけですね、これ。
才蔵と鎌ちゃんの関係を幸村は知ってると思います。
後は、甚八かなぁ。単体で読める話にしたので、他の話とは繋がってません
繋げて読んで頂いても構いませんが(笑)





2018/2/17初出