躊躇いながらも、ゆっくりと独歩は腰を落として、左馬刻自身を自分の中へ受け入れたが、そこで止まってしまった。 「は、あっ、も、ぅ、やぁっ」 (熱い………苦しい、のに、奥、中が、いっぱいで) 大きくて熱いものが、自分の中を貫いている。受け入れているその場所が、本当に自分の体なのだろうかと、独歩は自然と、手で自分の腹を撫でて確かめながら、見上げてくる左馬刻へ視線を向けた。 「入っ、た?」 「まあ、全部じゃねぇけどな。でも、これで終わりじゃねぇぞ」 言いながら、左馬刻は独歩の腰を掴むと、一度強く下から突き上げた。それだけで、独歩は声を出さずに喉を仰け反らせた。 崩れそうに左馬刻の方へ上体を傾ける独歩の両手を掴み、左馬刻の腹の上へ乗せる。 「手ぇついて、腰振れ」 「そ、んな、入れるだけ、って」 「だけとは一言も言ってねぇよ。ほら」 もう一度軽く突き上げ、動くことが気持ちいいことだと教えてやる。 「腰上げて、ゆっくり抜けるか抜けないかのギリギリで腰落とすんだ」 左馬刻の眼が、覗くように見上げてくる。促すような視線に、独歩はゆるゆると、腰を上げた。 (擦、れて、熱………足、震えて) 支えきれなかった体が、自然と落ちれば、自重で左馬刻を深く呑みこんでしまう。 「ふっ、うっ、ん」 もう一度、もう一度、と腰を上下している内に、独歩はもう、自分が何をしているのか分からず、湧き上がってくる快楽を追うように、左馬刻の腰の上で跳ねていた。 そうしよう、と思っているわけではない。けれど、左馬刻の鋭く強い眼で見られていると、まるで、腰から下が別の生き物になってしまったかのように、止まらなかった。 「はふっ、あんぅ、あっ、とま、ん、ない、あっ」 涙を流し、涎を零しながら、独歩の細い体が左馬刻の上で揺れる。緩慢ではあるが、必死に快楽を追う姿は、愉悦をもたらした。 「気持ちいいだろ?」 「ふあっ、んっ、あ」 分かっていないのか、こくこくと首を縦に振って、独歩は頷く。 しかし、緩慢な動きのままでは、左馬刻が達せない。仕方がない、と、独歩のリズムを崩すように下から何度も突き上げる。 「ひっ!やっ、や、だ、だめっ」 それでも、独歩の腰も止まらない。一度快楽を知り、覚えた体は勝手に動いた。 何度か強く腰を打ち付けると、左馬刻を包み込む場所が収縮を繰り返す。そこをこじ開けるように奥へ入り込み、欲を吐き出した。 「あっ………………あ、ふっ」 熱いものが注ぎこまれて、独歩の全身が震える。満たされる感覚が、頭から足の先まで駆け巡り、視界を明滅させた。 (ひたひた………気持ち、いい) 例え生殖機能がなくとも、Ωとして生まれた独歩には、αを受け入れる素地があり、番を求める本能がある。その本能が、与えられる快楽を余すことなく受け止めようとした。 脱力して倒れ込んできた独歩を受け止め、浅く繰り返される呼吸を整えるように、左馬刻は薄い背中を撫でてやる。 触れ合っている肌は温かく、撫でてくれる大きな手は優しく、繋がった場所は、熱い。全て違うのに、その全てが気持ち良かった。 独歩が倒れ込み、頭を預けているのは、左馬刻の鎖骨辺り。目の前に、白くて広い肩があり、預けた頭を少し傾けて、ゆっくり瞬きをした。 ふわりと、香りがする。その香りは、ほんの少し前、独歩の理性を溶かしたばかりの、左馬刻のフェロモンだった。 (いい、匂い………美味しそう) 甘いのに、くどくなく、どこか爽やかさもある、匂い。 自然と匂いを吸い込めば、体は反応して、受け入れたままの左馬刻を締め付けた。 「っ、おい!」 何に反応したのか分からない左馬刻には、独歩がまだ顔も上げないことが不審だった。そこまで刺激が強すぎる事をしたつもりがなかったからだ。 体が反応したことで、中にいる左馬刻の大きさ、熱さを感じ、少し苦しかったけれど、それ以上に、安心感があった。 そう。安心感だ。匂いも、体温も、声も、自分がどこにいるのか分からなくなるような快楽すらも、最後には、ここが自分の居場所なのだと思わせてくれる。 きっと、この選択が正しかった。左馬刻が選ばせてくれて、欲しいと言ったことは、間違いじゃなかった。 誰にも、渡したくない。そんな欲を出しても、許されるだろうか。俺のαで、俺の、番なんだと……… そう考えた独歩は、口を開け、目の前にある肩へと、噛みついた。 「いってぇな、オイ!」 肩口に噛みついてきた頭を上げさせると、独歩が嬉しそうに微笑んだ。 「俺の、だから、しるし」 「ああ、そういうことか。ったく。俺様に噛みつくなんざ、いい度胸してるぜ、あんた」 細い体を持ち上げて、ベッドの上へ押し倒した左馬刻は、その体を十二分に味わうために、目の前の細い首筋へ、強く噛みついた。 暴力は、日常だった。日々目にする景色の中に当たり前のように存在し、気がついた時には、その力を自分が奮うことが当たり前になっていて、その力によって守られるものが多数あることも、事実だった。 だが、それが絶対に正しいと思っているわけでもなく、暴力など使わずに守りたいものを守ることが出来るのならば、是非にもそうしたいところだが、慣れと躊躇の無さは、その力から抜け出す切欠を失わせた。 今となっては、暴力も血の臭いも自分の性に合っていて、世間一般的に裏社会とでも呼ばれる世界は、左馬刻の肌によく馴染んだ。 だから、独歩の存在は、酷く貴重だった。 チームを組んでいる銃兎や理鶯も、あえてカテゴライズするならば“力”の側だ。いざとなれば汚い手を使うことも厭わず、己の手にする力を奮うことに容赦がない。ヤクザの世界は言わずもがな、だ。 けれど、独歩は違う。力でねじ伏せようとか、暴力で片をつけると言うことは考えないのだろう。弱いと言う言葉で片付ける事も出来るが、そうではない、と左馬刻は思う。 この“普通”は、他では手に入らないものだ。身近にあったことも、ほとんどない。 まさか、これほど自分に馴染むとは、側にあって不快に思うことがないとは、考えてもいなかった。それが、αとΩであるせいなのか、番であるせいなのかは、分からないが。 半ば気絶するように意識を失った独歩が、左馬刻へ背中を向けて寝ている。独歩のうなじや首筋は、左馬刻が無闇に噛みつくせいで歯形だらけだ。血が滲んでいる場所もある。 それを見て思い出し、脱ぎ捨ててあったズボンのポケットから、細い箱を取り出した。 不要だと言ったのに、無駄に丁寧に施された包装を剥がし、取り出したのは、飾りも何もない、細身のシルバーネックレスだ。 身につけられて、視界に入りやすく、普段使い出来る物がいいだろう、と考えた。 最初は、柔らかで感じやすい耳朶へ穴を開けてやろうかとも思ったが、噛んだり舐めたりするなら、滑らかな方がいいに決まっている。無粋な穴は不要だ。 独歩の細い首へ、ネックレスをつける。留め具にぶら下がる小さなプレートを軽く弾いて、噛み痕の残るうなじへ吸い付いた。 「んんっ」 ごろりと、独歩が寝返りを打って左馬刻の方へ向くと、ネックレスが軽く音を立てた。 首輪をつける、と左馬刻は言ったはずだ。 「他の奴につけいられんじゃねぇぞ」 この場所にあれば、嫌でも毎日眼に入る。その度に、自分が誰のものなのか、思い出すはずだ。 目を覚ました時が楽しみだな、と意地悪く笑んだ左馬刻は、独歩の髪を撫でながら目を閉じ、穏やかな眠りに身を任せた。 ![]() 一緒にいてもいいんだと。 独歩が思える位の所まで書きたかったんですが。 何か、その手前、って感じになってしまったか? 2022/7/9初出 |