*十九*


 船が、碇泊できる港のない場所へと、半ば無理矢理に船体を寄せて止まる。
 破壊の後が所々に残るのは、かつてここでKMF戦が行われた事を示している。
「ここが、神根島?」
 降り立ったその場所で、星刻が呟く。誰もいない事はわかっているが、用心の為にと仮面をつけた“ゼロ”が先へ立って、歩いていく。少し距離をとって歩くL.L.が、星刻の疑問に頷く。
「そうだ。遺跡がある」
「遺跡?」
「神聖ブリタニア帝国第九十八代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは、各地に残されている遺跡を全て手に入れるために、侵略戦争を繰り返した」
「何?」
「中華にも一つある。ここは、元々日本の領土だったために、狙われた」
 しばらく歩くと、真っ黒な口を開く洞窟。その中へと、“ゼロ”が足を進める。長く続くのかと思われた洞窟はそう長くなく、すぐに突き当たる。
「あの時のままじゃないか」
「そう。君が壊した、あの日のままだ」
 L.L.の言葉に、“ゼロ”が振り返って答える。
「けれど、君がいれば、あちらへ渡れる。違うかい?」
「そうだな。私がC.C.と同じなら、出来るんだろう」
 まるで、祭壇のように一段高くなった場所へとあがり、“ゼロ”へ手を差し出す。
「行くんだろう、お前も?」
「ああ」
 “ゼロ”が白い手の上に、手を重ねる。そして、L.L.の手が、半壊した文様の描かれた岩壁へと触れる。瞬間、壁に描かれた文様が光り輝き、“ゼロ”の姿が消えた。
「お前はどうする、星刻?」
「君が行くのならば」
 差し出された手に、手を重ねる。空いている手が岩壁に触れ、輝いたと思った次の瞬間に、星刻は黄金色の空間にいた。
「驚いただろう?これが、“Cの世界”だ」
「Cの世界?」
「集合無意識が存在し、神が存在する場所」
「だが、その神はお前が滅ぼした」
 声に振り向けば、C.C.が“ゼロ”とともに立っていた。
「はずだった」
 C.C.の言葉に、L.L.の片眉が吊り上がる。
「はず?はずとはどういうことだ?確かに、あの時神は死んだだろう?ギアスをかけられて、アーカーシャの剣とともに葬られたはずだ」
 C.C.の横で、“ゼロ”が仮面を外す。
「そう。お前が確かに、神にギアスをかけた。『時の歩みを止めないでくれ』と。だが、今それが、解けかかっている」
「解ける?絶対遵守の命令が?まさか」
「神は神だったと言うことだ。たとえ、その大元が数多の死者の魂、ギアス能力者の悲しみであったとしても」
「神が、進化したとでも?」
「人が進化したように、神もまたそうだったと言うことだろう」
「もしも、今、神が元へ戻ろうとしたら、どうなる?」
「さあ、な。シャルルは、神を殺して世界を一つにしようとした。だが、お前は神を完全に殺すのではなく、ギアスをかけて止めた。葬られたのは思考エレベーターだけで、神自身ではなかったということだろう」
「で、お前の持っているそれは、何だ?」
 L.L.が、C.C.の握っている剣に視線を落とす。
「ああ、これか。神がやたらに唸るからな。これは、神自身でもあり、アーカーシャの剣だ」
「そんな小さなものが、か?」
「そうだ」
 剣を、横にいる“ゼロ”へ渡すと、C.C.は真っ直ぐに星刻の前へとやってきた。
「私はな、黎星刻。お前に、ギアスをくれてやろうと思っていたんだよ」
「C.C.!!」
「喚くな。お前にギアスを与え、私のコードを引き継がせれば、こいつと同じ不老不死になる。そうすれば、こいつは一人ではなくなるだろう、とな。そう考えて、“ゼロ”に頼んだ」
「私はそんなことを望んではいない!」
 L.L.の叫びに、C.C.が苛立ったように振り返り、その反動のまま、手を振り上げて、白い頬を叩く。
「お前、この一月の自分の言動を、振り返ったか?ゼロレクイエムの後、命を永らえてしまったと悲嘆にくれた後、お前は何をしていた?」
「そ、れは………」
「日がな一日、本を読んでいるふりをして、その実読んでなどいなかっただろうが。お前はまだ、制御ができていない。お前の心の声など、私には駄々漏れだ」
「っ!?」
「お前の心の声の大半は、こいつのことだったぞ。病の身を案じたり、ギアスが解けていないかを案じたり、騎士団の事にまで心を砕いたかと思えば、ナナリーやシュナイゼルのことにまで………どれか一つに絞れ!聞かされるこっちは煩くてかなわない」
 呆れているとでも言うように、C.C.が肩を落とす。頬を叩かれ、心の内側を暴露されたL.L.が、そっぽを向く。
「だが、状況はそんな場合ではなくなった。神を暴走させないためには、繋ぎとめる何かが必要だ。贄と言ってもいい。今までは、思考エレベーターがその役割を果たしていたが、それは消滅している」
「代わりのものが必要、ということか。世界を、破滅させないために」
「そういうことだ」
 話が早くて助かる、とC.C.が背を向ける。
「そうだな………玻璃の棺がいいだろう。花を沢山敷き詰めた、玻璃の棺」
 C.C.が言うなり、何もない空間から玻璃の棺が出現する。中には、色とりどりの花が敷き詰められている。
 その時、大きく空間が揺れ、彼方で、石の欠片が下方へと落ちていった。
「どうする、ルルーシュ。私か、お前。コード所持者どちらかならば、思考エレベーターに匹敵する力がある」
「下らない質問だな。最初から、私がお前を贄にする気はないと知っているくせに」
 苦笑するようなL.L.に、C.C.は意地の悪い笑顔を浮かべた。








一月ずっとルルの声を聞かされたC.C.はご立腹です。
遮断しようにも駄々漏れてくるので呆れてます。
後一話で終わりです。




2009/8/9初出