突然立ち上がったC.C.に、黒の騎士団幹部は驚いたように眼を見張った。 黒の騎士団の首魁である“ゼロ”の側近くに常にある少女。見た目とは裏腹な落ち着いた物腰と洞察力は、誰もが…一部は不承不承かもしれなかったが…認めている所だった。 「ちょっと、C.C.どうしたのよ?」 隣にいたカレンが声をかけるが、何もない空中を見詰めたままC.C.は、動かない。 藤堂や扇らも心配したように、動かないC.C.を見る。 と、突然C.C.が声をあげた。 「やめろ、V.V.」 「は?何?」 カレンが頓狂な声をあげるが、C.C.はそれを意にも介さずに、空中を見詰めたまま、叫んだ。 「よくも………やってくれたな!」 ただならぬ何かが起きたのだと、机を叩いたC.C.に、誰もがそう感じたが、誰も、言い出せなかった。 ああ、何だろうか、この気持ちは……… ぐるぐると、胸の内で沸き起こる薄暗い、憤りにも似た感情がわからずに、ルルーシュは持っていた書類の入った封筒を、握り潰さんばかりだった。 星刻に抱きついている女が誰か、などどうでも良かった。けれど、そう言う場所に出くわしてしまった、と言うそのことが、酷く腹立たしかった。 誰を好きになろうが、誰と抱き合おうが、あの男は別に自分のものでも何でもないのだから、構わない。 そう。こうして憤りや腹立たしさを覚えるのはお門違いなのだと、それでも、その感情を留める事が出来ずに、ルルーシュはその場から踵を返そうとした。 だが、気づいたらしい女が星刻から離れ、その様子に気づいた星刻が振り返った。 「ルルーシュ!?」 一つ息を吐き出して、近づいてくる星刻へと、書類を突き出す。 「忘れ物だ」 「あ、ああ。態々持って来てくれたのか?」 「退屈だったからな」 星刻が受け取ったのを確認して背中を向ける。送る、と言う言葉を無視してそのまま歩き出すが、追ってくる気配はない。 そうだ。それでいい。自分のような人間に縛りつけられていい人間では、ないのだから。 闇の世界を生きる人間では、ないのだから。 「初めまして、ルルーシュ」 「なっ………」 突然声をかけられて、声を失う。いつの間にそこに立っていたのか、子供が一人、立っていた。 床まで届く長い金髪に、紫色の瞳。けれど、どこか、存在感が薄い。 「誰だ、お前?」 「可哀想に。傷ついているんだね、ルルーシュ」 「は?」 「誰かに裏切られたの?嘘をつかれたの?悲しいよね、世界は。嘘と偽りだらけで、優しくない」 一歩、また一歩と近づいてくる子供が手を伸ばし、ルルーシュの膨れた腹に触れる。 「ああ、きっと、女の子だね」 「女、の子?」 「そうだよ。きっと、君によく似た可愛い子が生まれる」 じわり、じわりと、子供の声が耳から入り、脳内を侵食するように、滑り入ってくる。 変だと思って視線を転じると、黒いローブを纏った誰かが離れた場所に居、その右目が、赤く輝いている。 まさか………と思っていると、体から力が抜ける。 「少しお休み、ルルーシュ。きっと次に目が覚めた時、君は優しい世界にいるよ」 だめだ、眠るな………そう思うのに、意思とは裏腹に、体からは力が抜けて、意識も閉じていく。 瞼が下りて、その場にくたりと横になってしまったルルーシュの前にしゃがみこんで、子供は愛しげに、その白い頬を撫でた。 倒れこむその瞬間、それでも腹を守るように前のめりにはならなかったルルーシュに、心の中で拍手を送る。 「可愛いルルーシュ。マリアンヌに本当によく似ているね」 黒いローブを纏った男を招き寄せ、ルルーシュを抱えるように言う。子供の力と背丈では、ルルーシュを抱きかかえられなかったから。 そこへ、足音が聞こえた。 「ああ、邪魔者が来る。早く行くよ」 「はい」 ローブの男がルルーシュを抱え、子供が背中を向けた時、角を曲がって現れたのは、星刻だった。 「っ!?ルルーシュ!貴様等、彼女を何処へ!!」 剣を抜いた星刻が迫る前に、その姿が、忽然と消えていた。 「何、だと?」 そこには、ただ、静かな廊下があるだけだった。 急いで蓬莱島へ向かった星刻を出迎えたのは、C.C.の罵声だった。 「何の為に、あいつを貴様に預けたと思っている。ここよりは安全だと言う理由だからだ!」 「すまない」 「私の契約者に手を出して………奴らめ、許さないぞ」 黒の騎士団幹部室。現在は辞したが、短い期間でも騎士団総司令の地位にいた星刻を怒鳴りつけるC.C.に、誰もが口を挟めずにいた。 「彼女を浚った連中に、心当たりがあるのか?」 「ああ。すぐに向かう」 そう言うと、C.C.は、幹部室に設置されている通信機器を操作しだした。 すると、そこに、一人の少年が映し出される。着用しているのは黒い学生服。柔らかそうなブラウンの髪色に、紫色の瞳の少年だった。 「ルルーシュが浚われた」 画面の向こうで、少年が息を呑む。 『っ!?姉さんが!?何で!!』 「今、教団の位置はどこだ?V.V.はどこにいる?」 『な、何で、V.V.が姉さんを浚うの!?理由は…』 「そんなことは知らない。いいから早く教えろ」 急かすC.C.に、少年が応える。そして、少年が動いた。 『僕もすぐに行きます』 通信が途切れ、C.C.も動いた。 ![]() お姫様とは浚われるものだ、と言うわけのわからない私の中の確信がこう言う展開に。 ルルーシュを考えるとありえなさ満載なんですが。 もう今回のテーマ「ルルーシュがヒロイン」からしてありえなさ満載なので。 そんな感じにシリアスタッチで進めようと思います。 浚われたお姫様を助けるのは勿論王子様です。 2008/10/16初出 |