だって、仕方がない。 欲しいと思ったものは、いつだって手に入らないのだから。 だったら、奪うしか、他に手はない。 V.V.の視線が、星刻で固定され、悪意のこめられた瞳が向けられる。 「何だよ、お前」 「それは、こちらの台詞だ。彼女を、どうするつもりだ?」 「…サンプル、だよ。実験の」 途端、星刻の眉間に皺が寄り、剣を抜いたかと思うと、その切っ先をV.V.へ向けて、鋭く風を切る。 「サンプル?実験?彼女はモルモットではないんだぞ!」 「知ってるさ」 額から流れてくる血を、忌々しそうに袖で拭いながら、V.V.はふらふらと、覚束無い足取りで星刻の横をすり抜けようとする。だが、剣が横へと振られ、V.V.の行く先を阻む。 「それ以上近づくな」 「お前、何なんだよ?お前は、ルルーシュの何なんだ?」 「私は彼女の夫だ」 「………嘘だ」 「嘘をつく必要性がどこにもない」 上から威圧的に見下ろしてくる星刻に、V.V.が半歩下がり、睨みあげた。 「何で、どいつもこいつも、僕の邪魔をするんだ!」 「っ!?」 「一つくらい僕にくれたっていいじゃないか!僕だって欲しいものを手に入れて、悪いはずがない!」 突然怒り出したV.V.に、星刻が驚いたように肩を引く。その隙を突いたかのように、小さな体が転ぶように、前へと出る。しかし、行く先はジェレミアによって封じられた。 「どけよ!」 喚くV.V.に、ジェレミアが首を左右に振る。 「退くわけにはいかない。この方を傷つけさせるわけにはいかないのです」 「お前!命を助けてやっただろ!」 「それとこれとは別です」 「お前も、僕の邪魔をするのか!」 そこへ、ヴィンセントが姿を現した。 『V.V.』 振り返ったV.V.の顔には、憤怒の表情が張り付いていた。 「ロロ………お前、許さないぞ!僕を裏切って!」 『っ!だ、だって、ルルーシュは、僕を家族だって、そう言ってくれたんだ!貴方は、一度もそんなこと、言ってくれなかったのに!』 「そんなの嘘に決まってるだろ!こいつは嘘つきなんだ!」 『嘘、だって、いいんだ!嘘でも、嬉しかったんだから!』 ヴィンセントが動き、石の寝台に近づくと、眠るルルーシュの体をそっと、抱き上げる。 『だから、貴方には渡さない!』 「待て、ロロ!」 叫ぶV.V.が、その場に膝をつく。去っていくヴィンセントを追おうと、星刻がそちらへ一歩を踏み出そうとした時、低い笑い声が、地を這うように聞こえてきた。 振り返れば、そこにはおかしそうに肩を震わせているV.V.がいる。 「どうせ、眼なんて、覚めないよ」 「………どういう意味だ?」 「苦しめばいい。手に入らない苦しみを、味わえ」 ふらりと立ち上がったV.V.が、石の寝台を回りこんで、文様の描かれた壁へと手をつける。 「大嫌い、だ…どいつも、こいつも………」 壁が中央から二つに割れ、扉のように開いたかと思うと、V.V.の姿はその中へと、吸い込まれていった。 黄金色の光の充満するその場所で、V.V.は横になって、橙色の空を見上げていた。 額から流れ出る血は止まった。傷も回復した。けれど、結局、手に入れることが出来なかった。 どうして、誰も彼もが、自分を置いていってしまうのだろう。何故、いつも、いつも、自分だけが取り残されなければならないのだろう。 色褪せることなく、心の中にある思い。“神を殺す”と言う、その幼い日の約束。それを果たすために、人であることをやめ、人としての生を棄てて、生きてきた。 なのに、そうして生きてきた何十年、その間、繰り返し、繰り返し飛来する想いは、あまりにも人間らしい感情ばかりで、どうしようもなかった。 双子の弟は成長し、妻を娶り、子を儲け、育て、家族を得ていくのに、自分は成長せず、妻も娶らず、子を儲けることなど出来るべくもなく………ただ、薄暗い地下施設の中で、あの時の約束を果たすためだけに、呼吸をしている。 だから、せめて、その一つくらい、手に入れたかった。たった一つでいい………自分の隣で笑ってくれる人が、欲しかった。 「知ってた、さ。僕を、見ないことくらい」 マリアンヌが好きなのは、弟のシャルルだった。わかっていて、けれど諦められなかった。だからこそ、許せなかった。 だから、殺したのだ。自分を一人にしていく、その原因を。マリアンヌがいなければ、シャルルの心が自分から離れていくことなどなかったのに。彼女がいなければ、自分は一人になることなどなかった、のに……… 「ああ、でも、そうすると…ルルーシュも生まれてなかった、のか」 手に入らなかった彼女の変わりに、彼女の娘を手に入れようと思った。 そうだ…サンプルだとか、実験だとか、そんなのは名目に過ぎない。ただ、側に、いて欲しかっただけだ。彼女なら、コード保持者の横に立つのに相応しいと、そう……… 「やあ、シャルル」 いつの間にかそこにいた弟を見上げて、体を起す。 「ルルーシュがね、子供を産むんだって」 「………そう、ですか」 「そうしたら、シャルルはおじいちゃんだね。ねえ、シャルル、僕、もう、疲れちゃったよ」 「兄さん………」 苦笑しながら見上げた弟の眉根の寄った顔が、年をとった老年の顔になっている事に、V.V.はこれ以上ない疲労と諦念を感じ、眼を閉じてもう一度、横になった。 「疲れちゃったよ、シャルル」 「そうですね」 優しい橙色の光が、果てのない空間に満ちていた。 ![]() お姫様を横からもっていかれましたよ、王子様。 大丈夫です。きちんと星刻×女体化ルルですから。 王子様には大事な役目があるんです。 人間らしいV.V.を書きたかったので、こう言う流れになりました。 本当はもっとギャグになる予定でしたが…シリアス路線に戻ってよかったです。 2008/11/13初出 |