今は、誰も使う者のない、“ゼロ”の私室。その部屋の扉を開けて、窓から差し込む月明かりだけを頼りに、寝台へと近づく。 抱き上げていた体をそこへと下ろし、首へ回されていた腕を解いて、背中を向けると、服の袖を掴まれた。 「どこ、行くんだ?」 舌足らずな口調が、問う。 「少し、用事を済ませてくる」 「用事って、何だ?」 「大したことではないが、今済ませておかないと、後が厄介だからな」 「ここに、いろ」 「すぐに戻ってくる」 「星刻」 酒に酔っていると、何故ここまで人格が変わるのかと、甘えてくるルルーシュの頭を撫でる。 「すぐに戻る。君を守るためだ」 「俺、を?」 袖を掴んでいた手から、少し力が抜ける。しばらく思案するように黙り込んだルルーシュが、袖から手を離した。 「待ってる。すぐに帰ってこい」 「ああ。わかっている」 暗くて見えないが、きっと先ほどと変わらないくらい赤いだろう頬に手を触れて、軽く口づけ、星刻はルルーシュへと背を向けた。 酒宴の場にいた全員が、快く首を縦に振ったのを確認して、星刻は“ゼロ”の私室へと戻った。 その手には、酒瓶が握られている。転がっている中の未開封の一本を、勝手に拝借してきたのだ。短期間とはいえ、自分も“黒の騎士団”の総司令と言う地位にいた。他者から見れば、合衆国中華の要人と言う立場に今はある自分にとっても、今日と言う日はとても、重要な意味ある日だった。 体裁が整っただけで、これから先が真に大変なのだと言うことはわかっている。だが、その体裁を整えるだけでも、これほどに時間を要したのだ。その価値は、重い。 律儀に待っていたのかと、寝台の縁に、ちょこん、と座ったままのルルーシュが星刻の持っている酒瓶に眼を留める。 「君も呑むか?」 盃は、二つ借りてきている。頷くルルーシュを見て、酒瓶の蓋を開け、両方へ酒を注ぐ。 他人の眼に触れさせるなど真っ平御免だが、自分の前でなら、どれだけ酔って赤くなろうと、甘えてこようと構わないと、盃を軽く合わせ、乾杯する。 今日のこの、良き日に。 ![]() ルルーシュは普段甘えたりしないタイプだと思うので。 恐らくお酒が入って箍が外れたら物凄い甘えてくれそうな気がします。 自分の前ならいいけど他人の前で飲むのは絶対だめだ、とか星刻は言い出すと思います。 見せてなるものか!って(笑)。 2008/12/2初出 |