電話を切った篠崎咲世子は、ゆっくりと振り返って微笑んだ。 「おめでとうございます」 そこには、ロロ・ランペルージがソファに座り、いつものように携帯電話につけているロケットをいじっていた。 「何がです?」 不審そうに、突然の祝いの言葉についていけないロロの眉根が寄る。 「ルルーシュ様が、お子様をお産みになるそうです」 咲世子の言葉に、数秒動きを停止させたロロは立ち上がると、すぐさまKMFの格納庫へと足を向けた。 突然現れて懐から銃を出した少年に、黎星刻は戸惑っていた。一体この子供は、誰なのか、と。黒の騎士団の団員だったような覚えもあるが、そうよく顔をあわせた覚えはない。だが、その身に纏っている制服には、覚えがあった。 …確か、これはアッシュフォード学園の制服。 何故、エリア11の学生が、黒の騎士団のゼロの部屋に? 「初めまして、ロロ・ランペルージです。そして、さようならです」 本物の殺気がその目に宿っている事を見て取り、瞬時に星刻は立ち上がると剣を抜いた。 だが、次の瞬間、少年の姿が消えている。 「残念。僕はこちらですよ」 背後から聞こえてくる少年の声に、星刻は目を見張る。 馬鹿な…自分は、一時たりと視線を外しはしなかったのに………と。 「ロロ!」 撃鉄の起される音がすぐ傍でしたが、それは一つの声に遮られた。 途端、後頭部に当てられていた冷えた銃口が引いていく。 「何してる」 「ね、姉さん」 「え?」 「二度とその力を使うな、と俺はお前に言ったな?」 「で、でも、こいつ…」 「いいから銃を下ろして俺に渡せ。ほら」 白いシャツに黒いズボン、と言う薄手のいでたちの細い腕が差し出され、少年は静かに手に握っていた銃に安全装置を嵌めて渡した。 「何か言うことは?」 「ご、ごめん、なさい」 「俺に、じゃないだろう。星刻に言え」 言われた少年は、顔を星刻に向けると、本当に小さく、全く悪いと思っていない風情で、すみません、と呟いた。 「全く………咲世子から急にKMFで出て行ったと言われて驚いたぞ。何しに来たんだ?」 「姉さんが、子供を、産む、って」 「ああ、それか。ん?誰がそんなこと言ったんだ?」 「C.C.からの、電話で」 「あのピザ女が!」 悪態をついて舌打ちするその姿は、どう見ても女性には見えないが、確かにまだ平たいその腹部に、新しい命が宿っている。 だが、それより何より… 「状況に、ついていけないんだが」 星刻は、二人のやり取りにようやく、言葉を挟んだ。 ロロ・ランペルージ、と名乗った少年は、ゼロことルルーシュの隣にちょこん、と腰を下ろし、ようやく落ち着いたのか、コーヒーを啜っている。 「紹介してなかったな。弟のロロだ」 「弟?妹がいるのではないのか?」 「妹は、血の繋がった妹だが、ロロと血の繋がりはない」 「でも、家族、だよね?」 「ああ、家族だよ」 不安そうに見上げるロロの頭を、ルルーシュが撫でると、ほっとしたようにロロの肩から力が抜ける。 「エリア11で、俺のアリバイ工作をしてくれている」 「アリバイ工作?」 「ああ。色々と監視が厳しいんだ。で、ロロ。あちらはどうだ?」 「うん。大丈夫。何とかやってるよ」 「勉強は大丈夫か?」 「うん!この間も姉さんに教えてもらった所は全部できたよ」 「そうか」 目の前で繰り広げられる会話に、知らない人間が聞けば、まさか稀代のテロリストゼロとその弟だなどとは、到底思えないだろうな、と視線を空へ投げる。 「それで、何で俺が子供を産むから、って聞いて来たんだ?」 「だ、だって!姉さんの家族は僕だけでしょ?僕以外に家族なんていらないじゃないか!」 「ロロ………」 「…嫌、だよ。僕、姉さんとずっと一緒がいいのに。一人は、嫌だよ」 縋るように、ルルーシュの腕にしがみつく少年は、まるで母親を妹や弟に取られようとしている子供のようだった。何と言う不安定さだろう…と思っていると、ルルーシュの手が伸びて、ロロの頬を抓る。 「い、いひゃいよ、ねぇひゃん」 ぱちん、と離した手で、今度はロロの頭を撫でる。 「いいか。お前は俺の家族だ。俺がこれから産む子供も俺の家族だ。と言うことは、おまえの新しい家族と言うことになるんだぞ。わかるか?」 「僕の、新しい、家族?」 「そうだ。たとえ血の繋がりはなくたって、お前の姪か甥になるんだ」 「僕と、姉さんの新しい、家族」 「そうだ。お前は一人になるわけがないだろう。増えるんだよ、一人、家族が」 「僕のこと、好きなままでいてくれる?」 「勿論。きっと、この子だってお前を好いてくれるさ」 「………怖いよ、僕。だって、どうすればいいか、わからない」 「少しずつでいい。少しずつ、接し方を覚えていけばいいんだ」 「う、ん………」 一応納得したらしいロロが、ルルーシュから手を離して、残りのコーヒーを飲み干す。すると、満足したのか、エリア11に帰る、といって、ゼロの部屋を出て行った。 ………で、何故私が銃口を向けられたかの追求はしないのか、ルルーシュ? 結局最後まで蚊帳の外だった理不尽さに、星刻はがっくりと項垂れた。 ![]() 最悪の初対面な星刻とロロ。 きっとこの後も隙あらばロロは星刻に色々と仕掛けるでしょう。 「姉さんは僕のだ!」みたいな(笑) 蚊帳の外な星刻も書いていて楽しかったです。 2009/3/11初出 |