細い体を抱きしめ、項へと唇を寄せれば、くすぐったげに、身が捩られる。逃げないようにと、抱きしめる腕に力をこめれば、咎めるような口調の言葉が聞こえた。 「熱い。離せ」 「だめだ」 呆れたような溜息が聞こえて、星刻が眉間に皺を寄せると、顔が振り返った。 「お前………向こうで、女を抱いてこなかったのか?」 「は?」 「男なんだから、一月も真面目に、仕事に缶詰にされていたわけじゃないだろう、と言っているんだ」 言われた言葉がすぐには理解できずに、星刻はまじまじと腕の中にいるルルーシュを見る。すると、ルルーシュが体ごとこちらを向いた。 「商売女の一人や二人抱くくらいならば、私は許してやると言っているんだ」 「君は、私に浮気をすすめているのか?」 「そうじゃない。ただ、成人男性の生理現象を考えると、一月全く何の処理もしないと言うのはどうなんだ、と言う話だ。忙しくてそんなことを気にかけている余裕がなかった、と言うなら話は別だが、今回はそう言うわけではなかったのだろう?」 つまり、ルルーシュは、一月仕事で家を空け、外交と言うストレスの溜まる仕事をしていたのだから、そのストレスを発散する場所を設けなかったのか、と言っているのだ。 確か多少息詰まるような仕事ではあったが、今までのように時間に追われて寝る間もない、と言うような仕事ではなかったし、数日に一度は国際電話をかけて娘の声を聞いたり、ルルーシュの声を聞いたりしていたのだから、星刻にとっては、ストレスの溜まる仕事、と言う認識ではなかった。 「私は今、無性に腹立たしいんだが」 「何故だ?別に、悪いことを言っているわけではないだろう」 「悪いことを言っている」 「どこが?実に正論だろう」 「いいや。大体、どこからどうやってそんな理論を持ち出してきたんだ?」 「どこから?妻や恋人と言う立場の人間を伴わずに、一人で一月仕事先へ行く男の生理現象パターンから導きだした」 「そんなこと考えなくていい」 「考えるだろう。我慢でもされて体を壊されては困る」 「では聞くが、私が君以外に手を出したとして、君はどう思う?」 「どう?相手が素人でないのならば、ああ、相手は仕事だからな、と思うが」 「………君は、ずれているな」 「はぁ!?どこが!?」 「なら反対に、君ならどうする?一月私がいない間に、相手を探そうとか思うのか?」 「思わないな」 「そうだろう?私も同じだ」 「………ふぅん」 「何だ?疑っているのか?」 「いいや、別に」 欠伸を噛み殺して、瞼を下ろしてしまう姿を見て、ふと、気づく。 「もしかして、寂しかったのか?」 「………はぁ?」 胡乱気な視線が見上げてくる。嫌そうなその表情に、けれど星刻は微笑んで見せた。 「今までのやり取りは、遠まわしな素行調査のようなものだろう?一月いなかった私への」 「何故そうなる?」 「そう言うことなら安心してくれ。私は君以外に欲情しない」 「よっ………そう言うことを真顔で言うなっ!!」 ルルーシュの手が伸びて、星刻の額を叩く。その手を掴んで、指を絡めて繋ぐ。 「次に出張がある時は、君とあの子も連れて行こう」 「何故?」 「私が寂しいからな」 「………一月くらいなら我慢できるんだろう?」 「だが、寂しさは募る」 「まあ、考えておいてやる」 閉じられた瞼の上へと口づけて、星刻も瞼を閉じる。 是非、次にそう言う機会があるのならば、妻も娘も連れて行こう。自分が寂しいのも勿論だが……… 二人に、寂しい想いをさせないために。 ![]() 星刻もルルーシュも真面目な人間だと思うので、浮気はしないでしょう。 と言うか、星刻の場合ルルしか眼に入ってませんからね!ありえないです。 ルルーシュはそもそも浮気とか大嫌いな感じがします。お父さんが奥さん多いですからね(笑) たとえ寂しくても寂しいとは言わないルルを星刻は大好きなんです。 ツンデレって難しいですね!! 2009/10/10初出 |