*愛の形*


 クリスマスのプレゼントに貰った、大きなくまのぬいぐるみを抱え、早々に寝台へと潜りこんでしまった娘の肩へと、布団をかけてやる。
 サンタさんが来るまで起きている、と言ったのに、深夜を回らない内に、既に夢の中だ。その枕元へと、そっと、小さな箱を置いてやる。明日の朝になれば、気付くだろう。
 音を立てないように部屋を出て扉を閉める。そうして寝室へと戻れば、悲しいことに、部屋の明かりは消されていた。
 灯されているのは、寝台の脇へ置かれた小さな明かりだけで、その明かりで手元を照らして、本へ視線を落としている姿があった。
「ルルーシュ」
「寝たか?」
「ああ」
 声をかければ、顔すら上げずに声だけが返ってくる。何を真剣に読んでいるのかと思って近づいて見れば、クリスマスには不似合いな経済学の本。
「ルルーシュ………何故今それを読んでいるんだ?」
「別に、意味はない。眠れなかったからな」
 その手から本を奪い取り、遠ざけてから寝台へ上がれば、仕方なさそうに体を壁際へと寄せてくれる。
「気づかれなかったか?」
「それは大丈夫だ」
「それにしても、指輪が欲しい、とは恐れ入ったな」
「私と君がしているからだろう?」
 子供は、親の真似をしたがる。両親が揃いの指輪を左手の薬指に嵌めているのを見て、娘は自分も欲しいと言い出した。
「同じものなのか?」
「まさか。子供のうちから高価な物を手に入れるのはよくないだろう?偽物だが、似たものを探してきた」
「正論だな。ま、明日の朝が楽しみだ」
「喜ぶといいが」
「喜ぶだろう。問題は、寝ている間に潰さないかどうか、だな」
「箱に入っているから大丈夫だろう」
「いっそ、離して置いておけばいいものを」
「それは駄目だろう。あの子は、どうもサンタクロースはプレゼントを枕元に置いてくれる、と認識しているようだったからな」
「絵本など読み聞かせなければよかったか?」
「それは、夢がなさ過ぎだろう?」
「夢など抱いたところで、サンタクロースは実在しない、とどうせ知ることになる………って、おい。さっきから何してる。その手を退けろ」
 布団の中へと入ってきた時から、触れようと伸ばしてくる星刻の腕を、ルルーシュは何度も叩き落していた。
「ルルーシュ」
「何だ?」
 目の前に、小さな包みが差し出される。
「これは?」
「君へのクリスマスプレゼントだ」
「私に?」
 受け取ったそれは小さな箱のようで、包みを開けるべく、ルルーシュは体を起こした。
 リボンを解き、包装紙を丁寧に開いて、中から出てきた箱の蓋を開ければ、中には赤いベルベットのジュエリーケース。びっくり箱とかではないだろうな、と蓋をあけると、中にはダイヤモンドと思しき宝石の散りばめられた指輪が入っていた。
「これは、どういう意図で?」
「婚約指輪だ」
「はぁ?」
「よくよく考えたら、私は君に求婚はしたのに、指輪は贈らなかった」
「今更?」
「そう言わないでくれ。色々と考えたが、君は物を欲しがると言うことがない。ならば、私が贈りたいものを贈ろうと思った」
 真剣な星刻の眼に、ルルーシュは小さく吹き出した。
「お前は………全く………順序が逆だな」
「そうだな」
「仕方がないな。そもそも、私達は出逢いからして滅茶苦茶だったからな。こういうのも、“らしい”のだろう」
「受け取ってくれるか?」
「あのな、言っただろう?順序が逆だと。なら、受け取る以外の選択肢はありえない」
 蓋を閉じ、箱の中へとしまい、灯されたままの明かりの下へと置いて、遠ざけられた本を手に取る。そこへ挟んでおいた一枚のカードを抜いた。
「お前が本を取り上げるから、渡すタイミングを逃した」
「これは?」
「私が寝てから読め。おやすみ」
「は?」
 そのまま、ルルーシュは布団の中へと潜りこみ、頭まで隠してしまう。それを寝た合図だと理解して、星刻はカードを開いた。
 そこには、書くのが苦手だと言っていた中華の文字で、短く言葉が綴られていた。
 愛の、言葉が。









2009年クリスマス小説。
寝台の中でいちゃいちゃしてる星ルルが好きです。
ルルーシュは中華の言葉は喋れても書けないじゃないかと勝手に想像。
なので、実は一言言葉を書くだけでも凄く頭を悩ませたとかだと可愛くて萌えます。
辞書とにらめっこしながら手紙書くルルに萌えます。
そして、この後は勿論、ルルは寝かせてもらえません(笑)




2009/12/24初出