ベッドに横になったルルーシュの双眸が、室内に入ってきた内の一人を見た途端に細くなり、鋭くなった。 「そこのロールケーキ頭を抓み出せ」 「ルルーシュ!?」 「お姉様!」 星刻とナナリーの声にそっぽを向き、視界に入れないようにするかのように、瞼を閉じてしまう。 そんな母の側に寄り添うように、幸華がベッドの上に頭を乗せ、朝陽は何故かベッドの上に乗っている。恐らく、幸華が乗せたのだろう。 「母様、どっか痛いの?」 「大丈夫だ」 「じゃあ、苦しい?気持ち悪い?」 「そこのロールケーキ頭がいなければ気持ち悪くない」 「………おじいちゃん、なんでしょ?」 「誰だ、そんなことを教えた奴」 「あ、私だよ」 オデュッセウスが、にこにこと笑いながら話しかけ、近づく。 「久しぶりだね、ルルーシュ。可愛い姪っ子と甥っ子と会えてとても嬉しいよ。もっと頻繁に顔を出してくれてもいいくらいだ」 「オデュッセウス兄上。立場を少し考えて頂けますか?今の私は皇族ではありません」 「うん。でも、義妹には変わらないからね。ナナリーと何も変わらないよ」 「相変わらず、甘い」 「うん。シュナイゼルにもよく言われるよ」 「でしょうとも。で、何故三人揃って此処にいるんですか?」 ルルーシュの問いかけに、オデュッセウスの視線が泳ぎ、助けを呼ぶようにシュナイゼルへと向けられる。 「皇帝陛下は政務を抜け出して休憩だそうだよ。私は、きちんと仕事を終わらせてから来ているけれど」 「シュナイゼル!少しは私を庇ってくれ!」 「前皇帝陛下は………どうしているんでしたっけ?」 皇帝の地位を退位してからというもの、公の場に姿を現すどころか、自分自身の宮からもあまり出ることのないシャルル・ジ・ブリタニアがいる理由が、シュナイゼルには本気で分からなかった。 そこへ、慌てたような足音が幾つも響いてくる。そして、入室の許可を求める声にナナリーが答えると、白衣を着た医師を連れたメイドが、蒼白な顔のまま入室した。 白髪の老医師が、ルルーシュの診察を終えて部屋から出てきた。控えの間、とでも呼ぶべき部屋で待たされていた面々を見て、医者は誰に答えを述べるべきか迷い、結果、入ってきたその場で頭を下げた。 「御懐妊に間違い御座いません」 息子を膝の上に乗せ、娘を隣に座らせていた星刻が、ほっとしたように肩を落として、交互に息子と娘の頭を撫でる。その前に進み出たナナリーが、星刻の右手を取った。 「おめでとうございます」 「ありがとうございます」 「まさか、こんな嬉しい瞬間に立ち合わせていただけるとは、思ってもいませんでした」 「私も、正直驚いています。特に体調が悪そうではなかったので」 老医師が一歩進み出て、星刻の方へ顔を向けた。 「その、御懐妊に間違いはないのですが」 「何か?」 「………その、双子、ではないか、と」 「は?」 「今は医療機器が足りないので、はっきりと申し上げられませんが、恐らく」 「ふた、ご?」 「双子って、赤ちゃん二人なの、父様!」 「あ、ああ、そうなるな」 「朝陽!妹が二人か弟が二人か、妹と弟が同時にできるんだって!!」 「う?」 嬉しそうな幸華が、星刻の膝の上から弟を抱え上げて、ぐるぐるとその場で回る。 そこへ、扉をノックすることもなく、ルルーシュが入ってきた。入口付近で立ち竦んでいた医者を追い抜くと、星刻の胸倉を掴み、締め上げるように顔を近づけた。 「お姉様?」 「おい、星刻」 「何だ?」 「お前、本気で、死ぬ気で働けよ」 「当たり前だ!家族を路頭に迷わせる父親が何処にいる!」 「そこにいる」 言いながら、ルルーシュは何故かまだいるシャルルを示し、星刻から手を離し、ナナリーへと向き直った。 「すまないな、ナナリー。折角招待してもらったのに、体調を崩してしまって」 「いいえ。むしろ、お姉様にご家族が増えるとわかる瞬間を一緒に祝えることに、感謝いたしますわ」 「ありがとう」 「おめでとう、ルルーシュ。子供が生まれて落ち着いたら、また遊びにおいで」 「オデュッセウス皇帝陛下。お戯れが過ぎますよ」 「いいじゃないか、この位」 「全く、貴方は………甘すぎます」 にこにこと笑顔を絶やさないオデュッセウスに、流石のルルーシュも額に手をやり、呆れた。そのすぐ横で、何故かシュナイゼルが沈痛な面持ちをしている。 「また、私はおじちゃんと呼ばれるのだろうか………誰もお兄ちゃんとは呼んでくれないのだろうか………」 おじちゃん以外の何者でもない、という突っ込みは、流石に何処からも飛ばなかった。 赤ん坊がいる、と分かった幸華は朝陽の手を握って母に近づき、ぎゅっとその手を掴んだ。いつもなら飛びつくが、赤ん坊がいる時は駄目だと知っている。 「ねえ、母様、いつ赤ちゃんと会える?」 「まだまだ先だ」 「私もっともっと、いいお姉ちゃんになる」 「ああ。期待してる」 「朝陽もお兄ちゃんだからね」 「あー!」 分かっているのかいないのか、朝陽の手がルルーシュのお腹に触れる。 「お姉様、よろしければ一泊されていきますか?体調が整うまでいて下さっても構いませんし」 「いや。ありがたいが、仕事もあるし、ただの悪阻だからな。予定通り、夕方に帰るよ」 「そうですか………」 「あんまり寂しそうな顔をしないでくれ。帰りたくなくなってしまう。電話もするし、映像も繋ぐよ。何なら、産まれる頃には連絡しようか?」 「是非!幸華と朝陽は赤ん坊の時に抱けていませんから、もし叶うなら、お姉様の赤ちゃんを抱きしめたいですわ!」 「わかった。約束だ」 「はい!」 ルルーシュが小指を差し出すと、ナナリーがその小指に自分の指を絡めた。 夜も更けた時間帯、どうにかこうにか仕事を終えてコーネリアが皇宮へと戻ってきた頃には、既にルルーシュ達は合衆国中華へと戻った後だった。間に合わないと分かっていて訪れたアリエスの離宮で、何故かナナリーが正面に前皇帝、現皇帝、宰相を前にして、怒り心頭と言った体だ。 「いいですか?お姉様のご家族へのプレゼントは年に二回。クリスマスとそれぞれの誕生日のみです!特に、シュナイゼルお兄様!カノン様が可哀想ですから、二度と大量のプレゼントを送らないこと!」 「けれどね」 「言い訳はなさらないで下さい!それから、前皇帝陛下は余計なことをなさらないこと!今日のように勝手に御医者様の手配などはなさらないで下さい」 「うむぅ」 「唸っても駄目ですわ!皇帝陛下も、簡単にお姉様を招待などなさらないように!」 「厳しいなぁ、ナナリーは」 あ、これは長引くな、と思ったコーネリアは、そのまま自身の宮へと踵を返した。 ![]() 実は、カノンから機会があったら叱ってくれといわれていたナナリー。 ここで御説教です。最強はナナリーかもしれない。 アリエスの離宮でナナリーと御茶、は書きたかった話です。 ようやく書けました。よかった。 本当に、このシリーズのルルーシュは滅茶苦茶幸せになるといい。 2018/8/26初出 |