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真っ白な生クリームで覆われ、真っ赤な苺の載ったクリスマスケーキを、明日も食べるから、と言って半分残した子供達は、毎年恒例『サンタさんが来るまで起きてる』を実行に移したはいいが、日付が変わる頃には限界を迎え、既に夢の中だ。幸華は、サンタクロースは存在しない(実は両親)、と言う事を何となく気づいてはいるようだが、まだ小さい弟の手前、知らないふりをする作戦らしい。 すっかり寝入った事を確認して、子供部屋の扉を閉める。十二月も終わりに迫ったこの時期は、とにかく寒い。暖房は控え目に入れてはいるが、部屋と廊下の寒暖差はそれなりにあり、温かい物でも飲もう、とリビングへと足を運んだ。 温まったリビングの空気にほっとしていると、奥からマグカップを二つ持った星刻が出てきた。 「君も飲むだろう?」 「ああ」 マグカップを受け取って中を見ると、入っているのはホットココアだった。 「珍しい」 「何となく、お茶と言うのも味気ないきがしてな」 「確かに」 何と言っても、今夜はクリスマスイブだ。昔は『だから何だ』とルルーシュは思っていたし、今でも思っている。所詮、365日ある一年間のたった一日ではないか、と。しかし、子供達にとってはそうではない。クリスマスイブと言うのは、誕生日以外でケーキが食べられて、プレゼントまで貰えるとても楽しい一日だ。その期待を裏切ることは、親としては中々出来る事ではない。 「さて。本題に入ろうか」 「そうだな」 ルルーシュが促して椅子に座れば、星刻もルルーシュの正面に座る。その机上には、封筒が一枚置いてあって、既に封は切ってあった。今、二人の頭を悩ませているのは、この封筒の中身なのである。 「正直、あちらもどうかと思うのだが」 星刻の視線が、ルルーシュの後ろにある扉へと向けられる。子供達の視界に入らないように、頻繁に使わない物を入れている物置きへ無理やりしまいこんだのは、オデュッセウス、シュナイゼル、コーネリア、ナナリーなどから送られた、子供達へのクリスマスプレゼントだ。数もあるし、一気に渡すのはどうなのかと、一時的にしまいこんだのだ。 「わかっている。だが、問題はこっちだ。あのロールケーキ頭め!」 「落ち着け、ルルーシュ」 実の父親をロールケーキ頭呼ばわりはどうなのだろうか、とも思うが、彼女と養父との確執を思えば致し方ない、とも思えた。 そして、星刻は封筒を手に取り、中に入っている書類を取り出し、置いた。 「クリスマスに土地の権利書を送ってくる祖父って何だ!?とうとう耄碌したのか、あの男は!!」 「私はこの場所を知らないのだが、どの辺りなんだ?」 「それは島だ」 「島ぁ!?」 「あの年寄り、子供達に島一つずつプレゼントしてきた」 そう。書類は二枚あった。と言う事は、子供達に一つずつ、と言う事なのだろう。 「元々、継承順位の低い皇族の持ち物だったはずだ。オデュッセウスが皇帝になったことで順位が変わり、各皇族の責務や所有権も変化があったんだろう」 「これを一体どうしろと………?」 「どうもこうもない。送り返すに決まっている」 「まあ、そうだな。それ以外にないだろう」 「大体、これをこちらが受け取ると思っているのか、あの耄碌爺は」 どんどん口が悪くなっているぞ、とは星刻は言わなかった。言いたい気持ちも少しはわかったからだ。 幼い子供達宛に土地の権利書をクリスマスプレゼントとして送ってくる祖父………おかしいな、うん。と納得して、星刻は書類を封筒へ戻す。 「そうすると、次は奥のプレゼントか」 「どうしてクリスマスにこんな事で悩まなくちゃならないんだ」 ルルーシュはようやく一口目のココアに口をつけた。倣うように、星刻も口をつける。 「プレゼントを送ってくれることはありがたいし、お礼を言いたい気持ちもあるが、流石に数がな」 「ナナリーは私と一緒に市民の間で暮らしていたから、感覚は近いはずだ。プレゼントのサイズも大きくなかったしな」 「コーネリア皇女殿下も、大きいが軽かったな」 「あれは恐らく服だな。とは言ってもブランド品だろうが」 「まあ、高いは高いのだろうが、ぎりぎり常識の範囲内と言った所か?」 「ギリギリだぞ、本当に」 「問題は………」 星刻とルルーシュは、同時に溜息をつき、同時に物置きの方へ視線をやり、もう一度同時に溜息をついた。 「オデュッセウス皇帝陛下とシュナイゼル宰相閣下か………大きすぎるのでは?」 「中身は何だ!?開けるわけにもいかないのがむかつくっ!!」 包装紙からクリスマスムードが漂うプレゼントは、オデュッセウスの方はそれ程大きくはないが重く、シュナイゼルの方はとにかくサイズが大きかった。よく物置きに入ったと感心する位だ。 「明日の朝、子供達に渡して目の前で開けさせるしかないだろう。あまりにも高い物や使えそうにない物なら、少し考えなければ」 「送り返したい」 「流石にそれは………一応、誕生日とクリスマスだけ、と言う約束は守ってくれているのだから」 ナナリーから、お兄様達にはしっかり釘を刺しておきましたから、と連絡があって安堵していたのだが、だからと言って許可を出したわけではないし、子供達に毎年大きなプレゼントが貰えるのだと勘違いされても困るのだ。今のルルーシュはブリタニアの皇族ではないし、一庶民として、子供達に妙な金銭感覚を持ってほしくはない。貰えることが当然なのだと覚えてしまうのは、将来的に良い価値観を持つことには繋がらない。 「わかった。お前のその手でいこう」 「本当にありがたい事ではあるが、あまりにも金銭感覚が違い過ぎて………」 「その内KMFとか送ってきそうだぞ」 「やめてくれ。想像したくない」 頭を左右に振って、星刻は空になった自分のマグカップを持ち、ルルーシュのカップも持って立ち上がった。 ふと見た鏡の中の星刻の視線に気づいたルルーシュの目が、すっと細められる。 「お前、その目はやめろ」 「どんな目をしていた?」 「心底心配だという目だな」 「むっ、顔に出ていたか」 「今月に入ってからかなりの頻度でその目をしているぞ」 「仕方ないだろう?君のその細い足で三人分の命を支えているのだと思うと、心配で仕方がないんだ」 「それを言ったら、お前の肩には、家族六人分の生活がかかっているんだからな?」 「重々承知している」 「と言うか、来年は子供が二人増えてクリスマスや誕生日のプレゼントも増えるんじゃないか?今の内から高額な物は控えるよう釘を刺しておくべきか?」 「それに関しては、私からは到底言えないので、君から頼む」 「お前に言わせる気はないさ。いや、その前に出産祝いとか言ってくるんじゃないか?」 どう止めさせるべきか、と悩むルルーシュの髪を軽く指で梳きながら、星刻は視線を少し落とす。既に、ルルーシュのお腹は大きくなり始めていて、家事をさせるのも星刻としては心配なのだが、本人はどこ吹く風で動き回っていて、気にした様子がない。クリスマスに欲しいプレゼントは安心だな、と思いながら、ドライヤーのスイッチを切った。
権利書を送り返されたシャルルさんは何がいけなかったのか分からなくてV.V.に相談します。 シュナイゼルさんは子供達が包まれるくらい大きいぬいぐるみとかです。大きさ勝負。 オデュッセウスさんは将来困らないように金の延べ棒的な何かです。 ナナリーは無難にゲーム機的な遊び道具ですね。 星刻が一番欲しいのは安心と無事な出産だと思います。 動き回るルルーシュの事が心配でたまらない。 2025/12/24初出 |