*華-T-*


 生まれた時から死んでいるのだと、そう言われた。
 けれど、今は、生きていると、そう、実感できる。


 “黒の騎士団”からの“ゼロ”の退団。それは、全世界を揺るがすものだった。エリア11でのテロ活動に始まり、世界を駆け抜けたテロ組織も、今や一巨大企業のような形をとっている。成り立ちに不快感を抱く者が少なからずいるとはいえ、彼らの行動理念は首を傾げるようなものではなかったせいか、それを率いていた“ゼロ”の退団は、各地でニュースとして流れた。
 理由の大きな一つは、“黒の騎士団”は元々、イレブンと呼ばれるようになった日本人が、エリア11とされた日本を取り戻すために立ち上がった組織であると言うこと。だが、“ゼロ”自身の明かした所によれば、彼は日本人ではないのだと言う。ならば、彼らの手に組織を返すのが道理だろう、と。後進も育ち、揺るぎない形となったそこに、自分はもういらないと、そう言うのだ。
 センセーショナルに世界へと躍り出た“ゼロ”の世界からの消失は、またもセンセーショナルに行われ、以降、動く仮面の男、“ゼロ”の姿は世界のどこでも見ることが叶わなくなった。
 そして、その突然の行動に不審を抱いたのは、“黒の騎士団”と“ゼロ”に散々辛酸を舐めさせられたブリタニア帝国だった。
 そして、他のどの国よりも“黒の騎士団”と関わりの深い合衆国中華へと、ことの真意を確かめるべく、また、“黒の騎士団”の今後をどのように考えているかを問いただすべく、ブリタニア帝国宰相が、帝国最強の騎士を数人連れ、訪れた。
 “黒の騎士団”の力が衰えているのならばこれを好機と、開戦する気かと、合衆国中華内に緊張が走った。


 空は青天、陽気はまだ少し冬の冷たさの残る春、場所は合衆国中華朱禁城内にある会議室。極秘裏に設けられた、ブリタニア帝国宰相シュナイゼル第二皇子と天子の会談の場には、帝国側からナイトオブラウンズが三名とシュナイゼルの側近一名、そして合衆国中華側には天子の信頼する武官黎星刻を初めとする武官が三人と“黒の騎士団”の代表として皇神楽耶が同席していた。
「ここに貴女がいると言うことは、“黒の騎士団”は各合衆国と連携を強める立場にあると捉えていいのですか、皇さん」
「勿論ですわ、宰相閣下。たとえ“ゼロ”様がいなくなっても、健在です。むしろ、あの方がいなくなった騎士団を守ろうと、皆それは力が入っているのです」
 神楽耶の言葉は、騎士団の結束は固く、隙などどこにもない、開戦する気なら受けて立つ、と言う言葉と同義だった。
「たとえ“ゼロ”様が日本人でなくとも、ここまで我々を導いてくださったのは事実。むしろ、日本人ではないのに日本に心を砕いてくださったことを、皆感謝していますのよ」
「そうですか」
「ブリタニアにいまだ地位を得ている、どこかの誰かさんとは大違いなのですわ」
 神楽耶の視線が、シュナイゼルの後に立つナイトオブラウンズの一人、枢木スザクへと向けられる。自らの従兄弟へ向けるとは思えない、鋭い視線だった。
「私、今でも不思議ですのよ。どうして“ゼロ”様は貴方を殺さないのかしら、って」
「それは“ゼロ”が優しいからですよ、皇さん」
 天子の座る右側から、星刻が声をかければ、天子の左側に座っていた神楽耶が、そうですわね、と頷く。
「あの方は優しすぎますわ。でも、そこが良いのですけれど」
「ところで、“ゼロ”の退団理由はそれだけなのですか?」
「それだけ、と言うのは?」
 シュナイゼルの問いかけに、神楽耶が視線をスザクから戻す。
「後進が育ち、組織が形となり、日本を取り戻した。それだけなのかと、不思議に思っているのですよ、私は。あまりに急なその理由、他にもあるのではないか、と」
「まあ。他に何があると仰いますの?」
「他へは漏らさない、と言うことで教えてはもらえませんか?」
「何故、そこまでお知りになりたいのですか?」
「“ゼロ”の正体に、検討がついているのです、私は」
「まあ。お聞かせいただけますか?」
 神楽耶の視線が鋭くなり、星刻と天子も、何を言い出すかと、身構える。
「あれだけの知略、並の者が持つのは難しい。人を動かす事に慣れていて、かつ、日本人ではなくブリタニアに敵意を持つ者で、エリア11時代に立ち上がることが出来た人物。私は、生きた人間には難しいと考えているのです」
「まあ。“ゼロ”様が死者だとでも?」
「ある意味では。既に鬼籍に載っている者であれば、顔を隠す理由にもなりませんか?死んでいるからこそ、顔を見せられない。もしも、その顔がブリタニア人ならば誰もが知っている人物に、酷似していたら?」
「興味深いお話ですわね。それで?」
「ブリタニア皇帝の皇妃が一人、マリアンヌ様。ご存知ですか?」
「存じていますわ。とても御強くて御綺麗な方だったと」
「あの方には、娘が二人いました。一人は、以前エリア11で総督をしていたナナリーです。そして、もう一人が」
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
 シュナイゼルの後から声がかかる。言葉を発したのは、スザクだった。
「そう。枢木君は面識があったね、あの子と」
「その方が“ゼロ”である、と?」
 星刻の言葉に、シュナイゼルが力強く頷く。
「私が確信を持ったのは、この城の中で、黎星刻、君の娘を見た時だ」
「………続けてください」
「マリアンヌ様に、よく似ていた。見間違えるほどに。ナナリーは未婚だ。マリアンヌ様に血縁者はいない。ならば、考えられるのは、ルルーシュが生きていると言うこと。そして、あの子ならば、ブリタニアへの復讐を考える可能性もある」
「マリアンヌ様が、テロと言う名目で殺害されたから、ですわね?」
「ええ。よくご存知だ」
「私もそこにいる従兄弟と一緒で、ルルーシュ様とナナリー様とは面識がありますから」
「そうでしたか」
 にこりと、シュナイゼルが微笑む。初聞きのことばかりのナイトオブラウンズのジノとアーニャは、顔を見合わせていた。
「“ゼロ”を今更捕らえて処刑した所で、世論は紛糾する。だが、私は確認したい。私の妹が、生きているのか、を。君と以前一緒にいた少女が、事実、ルルーシュなのかを」
 シュナイゼルの視線が、星刻へと向けられる。心配そうな天子と神楽耶が星刻を見た時、会議室の扉が開かれた。
「流石は義兄上。よく観察していらっしゃる」
 開いた扉に手をついて、白い月下美人の刺繍の施された、黒い中華服を身に纏った、細い姿が立っていた。左の瞳を、黒い眼帯で覆った、黎星刻の妻が。








この話は、四…五話くらいの話になります。
色々なことにルルーシュが決断やら決着やらを………
そして、目指すはラブラブなので。
家族三人仲良くしているシーンも沢山書けるといいな…と。
せめて、二次創作でだけでも、超幸せにっ!!




2008/8/21初出