*華-W-*


 まだ少し震えている手を握り締め、問いかける。
「お前、何でスザクと決闘なんかしてたんだ?」
「呼び出されたからな」
「何故、言わなかった?」
「君に言えば、行くと言うだろうと思ったからだ。まさか、飛び出してくるとは思わなかった」
「………余計に手間をかけさせたな」
 自分が出て行かなければ、何事もなかったのかもしれないが、考える間もなく体が動いていたのだとは、何故か恥ずかしくて、口に出来なかった。
「少しでも、俺の言葉を聞いていてくれれば、いいが………」
「君はまだ、彼を信じているんだな」
「そう、だな………信じたいんだ」
 友達だったから。だから、信じている。信じたい。拮抗する気持ちはけれど、信じない、と言う方向へは決して、傾きはしなかった。
「少し、妬ける」
「何故?」
「君からそれほどの信頼を得ている、枢木スザクに」
「馬鹿なことを」
 苦笑して、ルルーシュは手を伸ばすと、星刻の顔を引き寄せ、自分の顔を近づけた。
「お前は、俺の夫だろう?」
 軽く触れて離れた口づけに、足りないと、星刻はルルーシュの頬に手を添えた。


 柔らかい黒髪を擽るように梳きながら、口づけを交わす。額、眦、頬、唇へと重ねられる口づけは深くなり、舌を絡める。
「んっ………ふあっ」
「ルルーシュ………」
 細い首筋に顔を埋め、白い肌に唇を押しつけて吸い上げると、そこには紅い花びらが散る。首筋から鎖骨、胸元へとゆっくりと顔を下ろし、白く柔らかい胸に辿り着く。
「相変わらず、小さい」
「うるさい!文句があるなら触るな」
「まさか。可愛らしいさ」
「むっ………っあ!」
 そっと口づけて吸い上げ、紅い痕を残す。心臓の上辺りへと、所有の印のように。
 細い体の線を指先でなぞり、綻び始めた蕾へと指を触れ、花開かせるべく、中へと指先を沈める。
「んっ………」
 ふるりと、内腿が震える。柔らかく纏わりつくそこへと、二本目の指を侵入させ、滲み出てくる愛液を内壁へ擦りつける。
 細い足がシーツを掻くように動き、白い額に玉の汗が浮かぶ。
「星、刻………」
「ん?」
「も、いい、から………」
「だが…」
 腕が伸びてきて星刻の顔を引き寄せ、啄ばむように口づける。
 応えるように、蕾から指を引き抜き、花心を貫くように、けれど痛みを与えないようにと、ゆっくり花を開く。
「んっ………んんっ…あっ!」
「っ………ルルーシュ………」
 細い腰を引き寄せて、最奥に辿り着いて、口づけを交わす。
「星、刻…」
「何だ?」
 額にかかる前髪をどかして、一滴の汗を舌で舐め取る。
「愛してる」
「っ!?」
「お前を、愛しているよ」
 ふわりと、微笑みながら告げられた言葉に、熱く滾るような情が沸き起こる。
 愛しい、と。
 目の前にあるこの存在が、たまらなく愛しく、恋しく、大切だと。
「なっ…まてっ、ああぁっ!」
 爛れそうなほどの感情が、熱となって吐き出される。全身を震わせて、けれど逃げずに受け止めてくれた細い体を、抱きすくめる。
「私も、君を愛している」
「んっ………」
 細い腕が背中に回され、抱きしめてくれていることに、この上もない至福を感じ、満たされていた。


 広い湯船の中で、長い黒髪がたゆたっているのを見て、一掬いして弄る。
「ルルーシュ」
「んー?」
 どこかまだ蕩けている紫色の瞳が振り返る。湯の熱さと醒めない熱情で、白い頬には朱がのっていた。
「髪を、伸ばしてみないか?」
「どうした、急に?」
「以前、言っていただろう?昔は長かった、と」
 短い髪の襟足に触れて、髪を梳く。
「そういえば、そんなことも………」
「見てみたい」
「髪、か。もう、ずっとこの長さだったからな」
 今更伸ばすのは妙な気分だな………と言いながら、星刻の長い髪を弄る。
「その内に、な」
「君は、私の髪を弄るのが好きだな」
「癖、だな。ずっと、妹の髪を結ってあげていたから。あの子の髪を結うのも、楽しい」
「そうか」
 毎日、朝になるとお気に入りの髪留めをもって、母親の所へ駆けてくる娘の髪を結っている彼女を見るのは、嫌いではなかった。むしろ、当たり前の一般家庭のようで、微笑ましかった。
 つい先日まで、戦場へ自ら足を運んでいた女性だとは、思えないほどに。
 髪を弄っていた手に手を重ねて、引き寄せる。そして、左手の薬指の根元に、唇を寄せた。
「結婚してくれ、ルルーシュ」
「………星、刻………」
「だめだろうか?」
 数秒の沈黙の後首肯し、振り返り、苦笑するような柔らかい笑顔に、ありがとう、と星刻は呟いた。








今までの話をよくよく読み返してみたらば。
星刻からルルーシュに対しては結構気持ちを言葉にしていたのに。
ルルーシュから星刻に対しては、一言も口にしていないと言うことに気がつきまして。
「好きだ」も「愛してる」もなかったことに自分でも驚きまして。
幸せにするなら互いを幸せにしないとだめだ、と思って、初めてルルーシュから星刻に言葉が贈られました。
後一話です。やっぱり、結婚式がいいですかね?




2008/8/30初出