花は散る、いつの日か。 けれど、種を蒔き、いつしか再び芽吹く、春が来る。 凍えるほどに寒い冬が来ようとも、雪を溶かす陽射しは空から降り注ぎ、雪の下から顔を出す命の息吹は、絶えることがない。 憎しみに凍えようと、悲しみに震えようと、人を愛しいと、恋しいと思う気持ちは、冷たい氷に閉ざされて埋められようと、消えることはないから。 腕を伸ばせば届く距離、と言うものが、こんなにも幸せなものなのだと、繋いだ手を握り締める。 「全く………あの子は元気だな」 呆れたように、庭を駆け回る娘を見ながら、右目を細めるルルーシュに、星刻は苦笑する。 「何だ?」 「いや。あの子の運動神経は、私に似たらしい」 「お前、それは嫌味か?私は平均値だ」 「だが、少し体力はないだろう?」 「男のお前と比べるな」 「すまない」 雪の積もった庭を、ころころと雪玉を転がしながら走る娘が、少し大きくなった雪玉を二つ重ねる。自分の背丈より少し低い雪だるまが、出来上がった。 かと思えば、今度は、足元の雪を集め始める。小さな白い手を赤くさせながら、けれど積もった雪が楽しいのか、頬を紅潮させて、立ち上がった。 「とうさま、かあさま、みてみて!」 ぶんぶんと腕を降り、二人を招き寄せる。座っていた長椅子から立ち上がり、娘の足元を覗き込めば、小さな三つの雪だるまがそこにはあった。 「このおおきいのが、とうさま、こっちがかあさま、まんなかがわたし!」 大きさの違う雪だるまを一つ一つ指差しながら、にこにこと笑う娘の頭を撫でてやり、ふと思いついて立ち上がり、側にあった椿の花の落ちている花弁を二枚、拾い上げる。 そして、並んだ三つの雪だるまのうち、真ん中の小さいのと左側の中位のものの頭に、一枚ずつつける。 「おはな!」 「この方が可愛いだろう?」 「うん!かあさまかわいい!」 「お前、意外とロマンチストだな」 「そうか?」 娘の冷えた手を取って握り、その手を摩ってやる。 「手が冷たい。そろそろ戻ろう?」 「えー?まだあそぶー」 「母様の言うことが聞けないのか?こんなに真っ赤で、後でこの間みたいに痒いー、ってなっても知らないぞ?」 「うっ………それは、や」 「だろう?ほら、部屋に戻って、お茶にしよう」 「はぁい!」 ぱたぱたと、汚れた服の裾や袖を払って立ち上がった娘が、庭を駆けてゆく。その背中を見ながら立ち上がり、先に行こうとするルルーシュの手を握る。 「ん?」 「いや」 ただ、手を繋いでいたかった。それは、冬の寒さに手が冷たいせいもあっただろうし、心の中が温かかったからかもしれなかった。 「とうさま、かあさま、はやくー!」 「今行くよ」 手を振る娘に、手を振って返すルルーシュの左手。そして、ルルーシュの右手と繋いでいる、自分の左手。 その薬指に光る銀色の誓いの欠片に、星刻は一人、微笑んだ。 冬は、決して花が咲かないわけでも、寒いだけでも、ないのだと。 こんなにも綺麗で、可愛い華が二輪も、側に咲いているのだから。 ![]() “華”はこれにて完結です。長いお付き合い、ありがとう御座いました。 当初、このシリーズは『星夜、恋恋』の中で派生として書き始めた話でした。 それが、まさかここまで続くとは思ってもいませんでした。 そして『星夜、恋恋〜弐〜』はここで完結………と思っていたのですが。 ネタが浮かびましたので、続きます。 付き合ってあげるわ、と言う方は、付き合っていただけると嬉しいです(苦笑) 2008/9/3初出 |