紅い唇が物騒な言葉を呟き、白い面が近づいてきたと思ったら、唇が重ねられていた。 仄かに甘い味がするのは、最前まで呑んでいた、酒の香りだろうか。 襟を掴んでいたはずの手が、いつの間にか首に回されている。 唇を割って入ってきた舌が、熱を求めるように口内を動く。それに舌を絡めて吸い上げれば、鼻にかかるような声が、喉奥から漏れた。 それを聞いて我に返り、肩を掴んで押し剥がす。 「星刻?」 とろん、とした右目が、不思議そうに見下ろしてくる。 「ルルーシュ、君は今、酔っているだろう?」 「酔ってない」 言葉は明瞭だが、目尻や頬に色づいた朱は、肌が白いせいで、夜目にも鮮やかだった。 「酔っている。だから、大人しく寝てくれ」 据え膳食わぬは男の恥、と言うが、この場合、酔っていて頭の螺子が飛んでいるだろう妻を抱くほど、星刻は別段欲情を持て余しているわけではなかったし、体を労わってゆっくり眠って欲しいと思うほどには、妻を大事にしていた。 「嫌だ」 「ルルーシュ」 強く言えば、腕が首から外れ、浮いていた腰が下ろされる。 途端、ぽたりと、右の眦から涙が零れた。 「っ!?」 「お前、俺のこと嫌いか?」 「そうは言っていない!」 ぽたぽたと、後から後から際限なく溢れてくるのか、頬を伝うその雫は、先刻呑んだ酒精よりもなお透明で、清らかだった。 眩む理性を、それでも何とか建て直し、幼子にするように形のよい頭を撫でる。 「君は今、酒に酔っていて正常な判断が出来なくなっている。だから、体を労わって休んで欲しいと思っているだけだ」 「星刻」 そんな表情をどこで覚えてきたんだ………と、小首を傾げ、上目遣いで涙に濡れた瞳を向けてくるルルーシュから、視線を逸らす。 見詰めているのは拙い、と思ったからだった。 「やっぱり、嫌いなんだな。わかった」 「あ、こら、どこへ行く!」 「一人で寝る」 星刻の上から降り、寝台から降りようとする腕を掴む。相変わらず瞳からは涙が零れ続けている。 まるで子供だ、と思ったが、口にすれば烈火のごとく怒るか、今以上に泣くかのどちらかだろうと思ったため、口にはせずに、腕を引いて寝台の上へ戻す。 酔っ払いの典型だ………と思いながらも、一人にしたら何をするかわからないため、寝台の上で座らせる。 「ルルーシュ、私は勿論君を愛している。嫌ってなどいない。だからこそ…」 「寂しい」 「え?」 「側にいてくれ、星刻」 伸ばされた指先が、星刻の衣服の袖を掴む。はたはたと頬を滑り落ちる涙に、理性の切れる音がした。 最初に肌を重ねたのは、いつだっただろうか………などと思いながら、涙を舌で掬いあげる。 あの時も、彼女は泣いていた。寂しさに、悲しさに。苦しさを忘れたいと、熱に溺れることを望んだあの時とは違う寂しさが、今の彼女にはあるのだろうか、と、頬に手を添えて、口づける。 もしもそれが、自分達と離れる事への恐れや寂しさならば………などと思いながら、額をつける。 耳元で名前を呼べば、小さな喘ぎ声が零れる。 形のよい足の爪先が、白いシーツを掻き、細い腰が浮いた。 軋む寝台の音と、肌の触れ合う音、甘い喘ぎ声と熱情が、空間を埋めていく。 いっそ、この甘さと熱の間で、深く酔えてしまえたら………そう思いながら、細い体を抱きしめる。 舌足らずな声が、何度も、何度も名前を呼ぶ。どこかに流されてしまったのだろう、理性の欠片。目の淵に浮かぶ涙は、そこに留まることがなく、次から次へと溢れ出しては、シーツを濡らしていく。 背中へと伸ばされた腕が、縋るように回される。爪を立てられる小さな痛みに眉根を寄せるが、その痛みも愛情に変換されるような、そんな気がした。 白く細い喉が仰け反り、そこへ唇を寄せながら、快楽への階段を駆け上る。 痙攣した細い体から力が抜けて弛緩し、背中へ回されていた腕が、シーツの上へと落ちる。 熱く甘い吐息の零れた唇を啄ばんで、艶やかな黒髪を撫でる。柔らかく微笑んだ瞳に瞼がおり、紫色の眼が隠れる。 火照る肌を撫で、心地よいまどろみに、夜が更けていく。 ![]() 大してえろくはありませんが、一応隠しっぽくしてみました。 えーと、会話分の無いえろを書いてみたかったのですが、挫折。うまくいきませんでした。 ルルはお酒入ると甘えん坊の涙ぼろぼろっ子になるといいと思ってます。 そんなルルに逆らえる男はこの世にいないよ!!と言う。 理性が固い星刻だって堕ちるんだよ!と言う、ただそれだけの頁、です。 2008/9/7初出 |