*鴛鴦の契り 七 *


 目の前で、箸を使って食事をしているルルーシュを見て、星刻は安堵と同時に微笑み、懐に手を入れて、しまっておいたそれを取り出した。
「ルルーシュ」
「何だ?」
 お茶を飲みこんだのを確認して声をかけると、一息ついた顔が上がる。
 眼前に、銀の指輪を出す。
「もう一度、君の指に嵌めてもいいか?」
「自分で…」
「私が、君の指に嵌めたいんだ」
「っ………………好きに、しろ」
 卓上に置かれたままの左手を取り、そっと、細くて白い薬指へと、銀の指輪を嵌める。
 そして、そのままその手を引いて、あるべき場所へおさまったそこへと、口づけを送る。
「は………」
「は?」
「恥ずかしい事をするな!!」
 振りほどかれた手。引き寄せた左手を、右手で包むように握ったルルーシュが、顔を背ける。
 耳が少し赤いのは見間違いではないだろうと、苦笑しながら立ち上がる。
「そろそろ、あの子を迎えに行こうか」
「どこに預けてきたんだ?」
「黒の騎士団に」


 蓬莱島。黒の騎士団本部。
 一週間ほど前、子供が泣き喚いていた部屋の扉が、開かれる。
 部屋の真ん中に寝転がり、ぐりぐりと白い紙に色を塗っている子供が、扉の開いた音に顔を上げ、飛び起きた。
「幸華」
 名前を呼ばれて、驚いたように、その手から握っていた鉛筆が落ちる。
「おいで、幸華」
「っ………か、さまぁ?」
「そうだよ。おいで」
 くしゃりと歪んだ顔。涙の零れた眼を擦り、子供は床を蹴り、腕を広げている母親の胸へと飛び込んだ。
「かぁさまぁ!」
 泣きじゃくる子供の背中を撫で、頭を撫でる。
「ごめん」
 かあさま、かあさま、と何度も呼ぶ子供が、泣き声をあげ、母親の服を伸びるほど掴む。
 そんな二人に、後ろから飛びついた影があった。
「姉さん!」
「ロ、ロロ!?」
「姉さん、僕のことも思い出した!?」
「あ、ああ、大丈夫だよ。心配かけたな」
「っ………よかっ、たぁ」
 安心したようにその場に座り込んでしまった弟へと片方の手を伸ばして、形のよい頭を撫でてやる。
「ロロおにいちゃ、かあさまがっ!」
「うん!よかったね!!」
 泣き笑いしながらしがみつく二人に、隻眼を顰めて苦笑する。
 そんな三人を見下ろしながら、一人蚊帳の外にいる星刻へと、紅髪の少女が近づく。
「良かったじゃない」
「ああ」
「ところで、聞いていい?」
「何だ?」
「テロを起した連中は、捕まえたの?」
「今夜、奴らの拠点を襲撃する。君も参加するか?」
「是非、させてもらうわ」
「それは心強い」
 黒の騎士団のエースパイロットである彼女が、テロリスト殲滅に加わるとなれば、敵も腰を抜かして逃げ出すだろう。
 今夜の作戦と、ようやく元の通りに家族が戻ったことに微笑んで、星刻は母親の腕の中で嬉しそうに笑う娘を見た。
 妻と娘が笑っているのが、何よりの幸せだ、と。








これにて『星夜、恋恋〜弐〜』は完結です。
といいましても、後一つ番外編を書きますが(笑)
この後、ロロも参加してテロリスト撲滅に行きます。
指輪をもう一度…と言うシーンは前回の『華』で嵌めるシーンを書かなかったので、書きたかったシーンです。
ルルーシュが自分から娘に近づいていかなかったのは、いきなり抱きしめて拒絶されたらどうしよう、と言う不安からです。
「鴛鴦の契り」と言うのは、仲の良い夫婦をさす言葉です。
ルルーシュは箸使えると思うのですが。どうなんでしょうか………(え?今更そんな疑問??)
あ、ラストだけ背景が違うのはわざとです。最後っぽい、穏やかで晴れやかな背景を、と思いまして。
このシリーズはどこまでも風呂敷を広げられそうで怖いですね(苦笑)



2008/9/19初出