不機嫌な仏頂面を変えることなく、一言も口を利かずに足を組んで椅子に座っていたルルーシュが、ようやく口を開く。 「これは、どういうことだ?」 「君を預かって欲しいと、C.C.に言われた」 「ほう。で、ここは?」 「中華連邦の朱禁城、その中に設けられている武官所で、私の私室だ」 「ほぉう。で、何故俺はここにいる?」 「君が眠っている間に、私が君を受け取りに行ったからだな」 「………………一発、殴らせろ」 低く発したルルーシュが立ち上がり、拳を振り上げる。だが、それは勿論、星刻の顔にまでは届かない。 「あまり暴れない方がいい」 「五月蝿い!俺の意思を無視して勝手に話を進めて!何を考えているんだ」 憤りが収まらないのか、星刻の掴んだルルーシュの腕は、震えていた。 「“ゼロ”はC.C.が務めると言っている。君はここから指示を出せばいい」 「そんな都合のいいこと…」 「私も、今は是非“黒の騎士団”の力を借りたい。天子様をブリタニアの手から救い出すには、私やこの国の者だけでは力が足りない」 「俺を、利用する気か」 「最初に、利用させてもらうと言ったはずだ」 自分の腕を掴んでいる星刻の手を振り払い、ルルーシュは掴まれていた場所を摩った。 「いいだろう。ならば、利用しろ。その代わり、この城の中を俺に案内しろ。地図があればなおいい」 “ゼロ”らしい物言いのルルーシュに、星刻は少しだけ安堵して、城内の地図を持ってくるよう、部下に命じた。 稜線に落ちていく夕陽。それを望む事の出来る場所に立ち、夕焼けの橙と赤の混じりあった色に照らされる白い横顔が、素直に綺麗だと思った。 「左右対称なのか」 見下ろせるのは、広がる朱禁城の形。兵士達の見回りに交じるようにして、城壁へと登ってきた。何者の侵入もこれまで許してこなかった城壁は、しかし、昨日大宦官達の手によって、異国の民を招きいれた、ただの壁となってしまった。既に、守るべき壁ではなかった。 「壮大だな。日本のものと全く違う。日本と中華連邦は少し似通っているかと思ったが、そうでもないのか?」 「どうだろうな。似ている部分もあるのだろう。古い時代には、日本の都がこの国の都を真似て作られたようだからな」 「成るほど」 興味深そうに見下ろしていた視線が、一箇所で止まる。そこだけ雰囲気が違うのは、ナイトメアが数機、腰を下ろしているからだ。 「あそこは?」 「ブリタニアの客人が泊まっている迎賓館だ。ナイトメアは遠慮して欲しいと言ったんだが、用心のためだと、断られたらしい…大宦官め。どこまで下手に出るつもりだ」 忌々しいと吐き吐き捨てる星刻の顔には、いいようもない焦りが浮かんでいる。それは、自国の象徴であり、全ての民の心の拠り所である存在が、この国から消えてしまうと言う事実だ。 それも、誰一人守ってくれる者のいない、魔窟へと送られてしまう、と言う事実。 「そろそろ戻る。C.C.と連絡を取りたい」 「ああ」 余りに広い朱禁城の中は、一度歩いただけでは迷子になってしまう。恐らく、侵入者防止のために、迷路のような造りにもなっているのだろう。それに、柱の色や壁の色、曲がり角などの造りがどこもかしこも同じに見えて、分からなくなってしまうのだ。 先へ行く星刻の後に続きながら、白い壁、赤い柱、緑の広がる庭に眼をやる。穏やかな時が流れているようでいて、心に重く垂れ込めるような黒い雲が広がっているように感じるのは、政治と権力の中枢ゆえ、だろうか。 そんなことを考えながら歩いていたルルーシュの足が、止まる。 「ルルーシュ?どうした?」 気配の遠のいたルルーシュを振り返った星刻の向こう、穏やかに笑う顔がある。数人の部下を引き連れ、まるで王のように悠然と歩く人物が。 「これは、シュナイゼル宰相。このような場所に何か?」 「いや、歩いていたら迷ってしまってね。ここはどの辺りだろうか?部屋がどちらの方向だか、分からなくなってしまってね」 恥ずかしい限りだよ、と星刻に話しかける視線が、ルルーシュで止まる。驚いたように見開かれる青紫の瞳に、悦びの色が浮かんだ。 「ルルーシュ、かい?」 「っ!」 「ルルーシュだろう?」 一歩、また一歩と、ゆっくりと前へ足を進める。側に立っていた側近だろう女のようにも見える男が、シュナイゼルとその視線の先にいるルルーシュを見た。 「生きていたのだね、ルルーシュ。ああ、綺麗になって…まるで、マリアンヌ様が戻ってきたかのようじゃないか」 「っ…シュ、ナ………」 「すまなかったね、迎えに行ってやれなくて。今までどうして…ああ、そんなことは後でもいい。さあ、一緒にブリタニアへ帰ろう?」 差し出された手が、ルルーシュに触れようと伸ばされる。その手を、ルルーシュは反射的に弾いていた。 「お前、殿下に何をっ!」 「カノン、いいんだよ。この子は、いいんだ」 ………怖い…怖い、怖い、怖い、怖い! 「来るな!」 「ルルーシュ………もう、私のことは嫌いかい?」 「やめろ………来るな、近づくな!俺に触るな!」 近づくシュナイゼルと、後ろへと下がるルルーシュ。一進一退のその様子と、明らかに怯えて焦点の合わなくなっているルルーシュを見て、星刻が動いた。 「失礼。どなたかと、宰相閣下は勘違いをされているかと」 シュナイゼルとルルーシュの間に割って入り、倒れそうなルルーシュの手を握る。 「勘違い?」 「彼女は、私の………私の、妻ですから」 「妻、だって?」 「はい。身重の体ですので、ご容赦頂きたい」 震えているルルーシュの肩を抱き、歩けそうには見えない体を抱え上げる。身重とは思えないほどに、軽かった。 「それでは、失礼します。それと、宰相閣下のお部屋はこちらではなく、逆方向です」 一礼し、すぐにあった角を曲がる。本来走ることは緊急時以外禁じられていたが、星刻は走った。 あれ以上、あの場にルルーシュを、置いておけなかった。 ![]() 破鏡、はきょう、と読みます。意味は夫婦別れ、離縁のこと。 なのですが、この場合は鏡が破れるように崩れゆく…的な感じで捉えてください。 すいません、嘘ついて。シュナ様が出てきちゃいました。あ、でもここくらいです。まともに出てるのは。 だめなんですよ、この人。書き手の言うこと聞かないで「私は出たいときに出るんだよ」みたいな(笑) お願い、大人しくしててー!!と思うのに、出張る、出張る。 ルルはオデュッセウスだけでシュナ様が来てるとは全く知らなかった設定でお願いします。 それと、この話は星刻に「妻です」宣言させたかったが為に出来た話です。 ちょっとくらい夢見たいんです、星刻と女体化ルルにっ!! スザクだとシュナ様に対抗できないけど、星刻ならきっと出来ると思ってます。 2008/6/18初出 |