*想い、想われ、違え道*


 たった、一度だけでよかった。
 君が、心の底から微笑む笑顔を、見たかった。


 咎人。
 義兄を殺した。義妹を殺した。親友を裏切り、実妹と離れ、血に染まる道を歩き続けると誓った。
 自分に、人を愛する資格などない。人を愛する時間が許されるわけがない。
 親友が、妹が離れていったのは、その報い。多くの人を殺め、苦しませ、悲しませた。諦めきれないその存在を、けれど諦めなければと、唇を噛んだ。
 自分はいつか、裁かれる。その日の為に、今は生きなければならないのだと。どんなに罪を背負おうと、息苦しくなるほどの苦しみ、悲しみを背負おうと。
 なのに………
 なのに、何故お前は、そんな目で俺を見る。
 まるで、労わるような、悲しむような、そんな目で。
 優しさは、いらない。情けも、慈しみも、俺にはあってはならないものだ。信じてはいけないものだ。縋ってはいけないものだった。
 それなのに、お前は俺に手を伸ばす。縋った俺を突き放してくれればいいものを、優しくこの手を繋ぐ。
 止めろと、優しくするなと、言いたかったのに………言えなかった。言えるはずがなかった。
 お前は、知らないだろう。俺が、お前の優しさに、どれだけ救われていたかと言うことを。どれだけ、心安らかにあれたかと言うことを。
 殺伐とした戦場で、憎悪の混じる日常で、俺は確かに、お前に救われていたのに、それを言葉には出来なかった。してはいけないと思った。
 それは、許されないから。
 俺に………ギアスの能力に呑まれ、いつか壊れ行く俺に、誰かを愛し、恋し、言葉にして繋ぐことなど、怖くて出来なかった。
 だから………
 泣くな。お前が、泣く必要など、一つもない。俺は、俺の罪と罰を負い、俺自身の業で死に逝くのだから。
 ああ、それでも、せめて、許されるのならば………
 この子を、産んでやりたかったよ。
 お前が、愛してくれると、言ったから。
 お前に愛されるのならば、きっと幸せになれるだろうと、そう思ったから。
 俺が、幸せだったように………………


 何故、繋いでやらなかったのだろう。言葉にして、行動にして繋げば、彼女は死なずにすんだだろうか。
 その手を握り、体に触れて、優しく包み込んでやればよかったのだろうか。
 ………もう、全て遅い。何も、かもが。
 何を言葉にしても、行動にしても、彼女は戻らない。
 一度も、私に見せてはくれなかった。
 心から、心の底から、真に喜び、微笑む表情を。いつも、どんな時でも嘲りや憎しみや、悲しみを含んだ笑顔ばかりで、私はそれを悲しいと思った。
 きっと、この上なく、美しいだろうに。この上なく、綺麗なものだろうに、と。
 もっと、縋って欲しかった。私を、頼って欲しかった。
 何て、愚かだろう。自分勝手だろう。
 こんな風に後悔するほどに、知らず内に彼女を………
 君を、愛していたと言うのに。
 すまない。すまない。すまない。幾ら謝ったところで、君が戻らない事はわかっている。それでも、それでも!
 私は、本当に、君を………








少し短いですが、それぞれの心情を書きたかったので。
この段階では道が違えてますので、こう言うタイトルです。
ルルが少し優しいです。相手が星刻だから、かな?
ルルは情が深い子です、きっと。
だから、簡単には切り捨てられないし、一度内側に入れちゃうと、追い出せなくなっちゃうのです。
天子様にも冷たくし切れなかったですしね(笑)




2008/7/5初出