後夜祭と言う名目のダンスパーティーが始まったメイン会場。その輪の中へ参加するでもなく、周囲に鋭く視線を走らせる星刻が一人、歩いていた。一緒に来たはずのC.C.は相変わらず行方不明で、探す気も完全に失せていた。 華やかなこの学校の文化祭の裏で、ルルーシュは少しずつ、自らの願いを叶えるべく様々な策を弄し、利用しようとしているのだろう。星刻に対しても、利用すると言ったルルーシュだ。ならばと、星刻も彼女を利用しようと腹に決める。 飾り物の天子、大宦官に政治を牛耳られた中華連邦の現状を憂えるものは、星刻一人ではないはずだ。だが、その大宦官達の力があってこそ、ブリタニア帝国の脅威に持ちこたえているとも言えた。 ならば、飾り物の天子を飾り物でなくせばよい。そのためには、一人でも多く天子を想い政治をしようと、純粋にそう思う者が増えればいい。しかし、そこへ辿り着くには、長い時間がかかることだろう。そして、そんな時間を待っていれば、ブリタニアからの脅威は増すばかりとなる。 だからこそ、このエリア11で騒ぎを起してもらうのは、好都合といえた。中華連邦の目と鼻の先で起こる騒ぎに、ブリタニアの目が釘付けになっている間に、内部でことを起せばいい。そのためには、利用しあう事も必要だろう。 メイン会場に、ルルーシュの姿はなかった。ならば、どこか別の場所にいるのかと探すが、どうも周囲にもその影はない。夜の闇の中から、一人の人間を探すのは骨が折れる。仕方がないと、昼間会った時に教えられていた番号へと電話をかける。 一つ、二つ、三つ………コール音を十数えた所で、相手が通話ボタンを押した。 『誰?』 流れてきたのは、男の声。聞き覚えのないその声に、星刻は無言を通す。 『この番号、見覚えある、ルルーシュ?』 どこか楽しそうな声で、男が問う。だが、電話の向こう側からルルーシュの声はしない。 『どこの誰だか知らないけど、ルルーシュは僕のですから』 ふと、電話の向こうから流れてきている音楽は、今この後夜祭の行われている会場で流れている音楽だと気づく。ならば、この曲が聞こえる範囲内のどこかに、いると言うことだろう。 ぶつりと切れた通話。何か、よくないことが起きているように思われて、星刻は電話をしまい、走り出した。 アメジストの瞳も赤い唇も白い手首も、全てを白い布で封じ、細い体の上へ乗る。 「今の、一体誰なのかな?」 答えられないと、見えないと分かっていながら、問いかける。 「男みたいな気がしたけど。まさか、僕がいなくなってから他の男と付き合ってるの?」 黒い詰襟の制服。その襟に手をかけ、殊更ゆっくりと寛げて行く。 「また、僕を裏切るんだね、ルルーシュは」 学生服の下に着込んでいる白いシャツ。その襟に手をかけて、ボタンを弾き飛ばすように強く左右に引き裂く。 「胸は相変わらず小さいね。潰す必要、ないんじゃない?」 女だと言うことを隠すために着ているベストを破いて、そっと白い肌に手を這わせる。 「君に会いたかった。ずっと。今度こそ、君が僕を裏切れないようにしてあげる」 怯えるように、薄い肩が震える。それを押さえつけて、握りつぶすように強く胸を握る。 「いい加減、自覚しなよ。君は女なんだ。そして、君は負けたんだよ、僕に。決して、対等になんかなれないし、勝てもしないんだからさ」 逃げようと言うのか、体を動かそうとするルルーシュの足を足で押さえつけ、肩を腕で押さえて、空いているもう片方の手を振り上げる。 だが、その手を振り下ろそうとする前に、手首に何かが巻きつき、動かなくなった。見れば、綾に織られた紐のような綱のようなものが巻きついている。 「そこまでにしてもらおうか」 「………誰?」 「私が誰でも構わないだろう。それより、女性にそんなことをするのは、紳士的ではないな」 「僕の物を僕がどうしようと、勝手でしょう?」 「女性を物扱いするのか?ブリタニアの騎士も落ちたものだな」 「………仕方ないな。邪魔も入ったから、今日はここでやめておくよ」 腕を降り、巻きついた紐を外し、目の前で横たわっているルルーシュの目と口に施された布を外す。 「苦しかったでしょ。苦しい思いをしたくなかったら、二度と、僕を裏切らないでよ」 冷ややかに見下ろし、手首を結んだ布を外さず、抱き起こしもしないまま背を向ける。 「スザク!」 ルルーシュが呼ぶが、振り返らないまま過ぎるスザクが、突然の闖入者である星刻へ視線を向け、声に出さずに呟いた。 渡さない、と。 殺気を放ちながら擦れ違うスザクを見送り、腕を縛られたままのルルーシュに近寄り、布を外す。 「大丈夫か?」 「ああ」 引き裂かれたベスト、ボタンの弾けとんだシャツ。唯一無事な詰襟の学生服の前を整え、手を貸して立たせようとすると、手を弾かれた。 「一人で立てる」 震える足に力を入れて立ち上がったルルーシュは、けれどすぐその場に膝をついてしまう。 「っ………くそっ!」 地面を拳で叩き、何とか自分の力だけで立とうとするが、恐怖心からか、足が言うことを利かず、見かねて星刻は肩を掴んだ。 「無理はしない方がいい。君は…」 「俺は男だ」 「何故、そんなに拘る?」 「男でなければ、守れない。大切なものを。女のままでは、搾取されるだけだ」 華奢な体のライン、薄い肩に細い腕や足。これのどこが女性のものでないと言うのだろうか。頑固なのも考え物だと、星刻は深い溜息とともに腕を伸ばして、ルルーシュの膝裏と背中を支えて抱き上げた。 「おい!」 「男も女も関係なく、辛いのなら辛いといって構わないだろう」 「お前………」 「私を利用すると言っただろう?利用すればいい」 「………………なら、そうさせてもらう」 不承不承と言った風に頷いたルルーシュを抱えて、星刻はその場所を後にした。抱えたルルーシュのあまりの軽さに、少し、驚きながら。 ![]() 女体化ルルと黎星刻第二弾。 実は「ナイトオブラウンズ」が放送される前に書いたので、ちょっと辻褄合いませんが、見逃してください。 っていうか、既に女体化な段階で辻褄も何もない気がしたり。 女体化ルルは細くて体重超軽い、とかだとお姫様抱っこしやすくていいと思います。 星刻には頑張って、黒い枢木さんと張り合っていただきたいと思うです。 だって、“ルルーシュ並の頭脳とスザク並の身体能力”の男ですから!! 2008/5/10初出 |