拒絶。拒絶。拒絶。拒絶。拒絶。拒絶……… 何も、ない。前にも、後ろにも。どこにも、何も。 全てを、失った。これ以上の苦しみが、どこにあるだろう。 いっそ、心臓を撃ち抜かれた方がましだった。炎に包まれ、焼き尽くされた方が幸せだった。 なのに、何故生きている。何故、呼吸をしている。 もう、この存在に、意味などないのに……… 覚束無い足元が、ふらりと揺れる。何かにぶつかったが、そのままふらふらと歩いていこうとして、肩を掴まれた。 「おい!人にぶつかっといて、謝罪もなしかよ!?」 いきり立った男は、そのまま肩から胸倉を掴み、細い体を持ち上げるようにし、威嚇するように睨み付ける。 「おら、謝れよ。ぶつかってすいませんでした、って」 一人じゃないらしい男の周囲には、にやにやと口元に笑みを浮かべる者達がいる。だが、そこからふと逸らされた視線は、何を見るでもなかった。 「聞いてんのか、てめぇ!」 男は、更に胸倉を締め上げるようにして、ぶつかった小柄な少年の体を地面から浮かせる。ようやくその時、苦しげな声が喉元から漏れた。その声と、掴んでいる胸倉の妙な感覚に、男は下卑た笑いを浮かべる。 「こいつ、女だ」 「あぁ?そんな格好で?」 にやにやと笑っていた男たちが、不思議そうにその体を眺め回す。薄い肩、細い腰や手首、確かに個々のパーツは、男とは呼べなさそうだった。 「いいぜ。謝らねぇなら、それなりの対処をとってやる」 乱暴にそのまま手を離して、地面へと押し倒し、その上へと馬乗りになる。 薄暗い路地。夕暮れの時刻。条件は、全て男達に味方していた。抵抗する気のないらしい少女の衣服に手をかけ、引き裂く。冷たい外気に触れた体が震え、抵抗するように弱弱しく腕が上がる。だが、男はその腕を地面へと押さえつけた。 「大人しくしろよ。悪いようにはしねぇ」 びくり、と組み敷いた体が震える。 『大人しくしなさい。悪いようにはしないから』 男は、組み敷いた少女の表情が、見る見るうちに変わっていくことに気づかなかった。それは、恐怖、と呼ぶよりもむしろ、恐慌に近い表情だった事を。 「気持ちよくしてやる」 少女の脳裏で、フラッシュバックする情景。痛みと、悲しみの。 『気持ちよくなるだけだよ』 がたがたと震えだした少女の喉から、悲鳴が迸る。それは、甲高く路地に響き渡り、馬乗りになっていた男はたじろいだ。 『君が大人しくしていれば、すぐに終わる』 少女の瞳が、ここではないどこかを見ていることにようやく気付いた男は、狂気のその瞳に、急いで立ち上がると、周囲にいた男達を伴って、そこを離れようとした。 だが、路地を塞ぐように、男が一人、立っていた。腰に、見慣れない形の剣を差している。 「下郎が」 剣を鞘から抜きもせずに軽く振るい、その場にいた男達全員を昏倒させると、そのまま地面に横たわった少女に近づく。 「ルルーシュ」 しばらく口にすることのなかったその名を口にし、手を差し伸べて抱き上げる。震えている細い体と、定まらない視線が、悲しいほどに憐れだった。 その体が、くたりと力を失う瞬間、小さく、助けてと呟いたのは、聞き間違いなどではないだろうと、抱き上げる手に力をこめた。 怖かった。ずっと。皆の自分を見る瞳が。悪意と敵意にばかり満ちていた。その中で、家族以外に優しい瞳は、二つしかなかった。 一つは、義兄。一つは、初めて出来た友達。 信じていた。信じていたのに………裏切られた。 愛していると言う言葉も、好きだと言う言葉も、全て虚言に聞こえた。 愛していると言うのならば、好きだと言うのならば、何故私の意志を無視する。私の意志など、思いなど、気持ちなど、どうでもいいと言うのか。 なら、その言葉の真意はどこにある?一体どこに、その心の真がある? 分からなかった。だから、何も、信じられなかった。 もう、何も信じない。信じなければ、裏切られない。 それでも、信じたいと願う自分は、愚かなのだろうか……… そして、もう、信じる理由が、裏切られて傷つく理由が、なくなった。 理由を失えば、もう、立てない。 見慣れない天井。赤い幕。白いシーツに枕。体を起すと、赤い幕が左右に押し開かれた。 「目が覚めたか?」 明るい光と共に、特徴的な長い黒髪が目に入る。黎星刻。中華連邦の男。 「体はどうだ?痛む所は?」 問われて、腕を摩り、足を動かす。特にどこも、痛みはなかった。 「大丈夫だ」 「君らしくもない。あんな路地裏を歩き、男達に捕まるなど。一体何故、あんな場所に?」 「………俺らしい、というのはどうだったかな?」 「何?」 「もう、何も無い。全て、失った」 「何を言っている?」 「理由がなくなった。“ゼロ”になる理由も、“黒の騎士団”を率いる理由も。守りたいと願ったものは、全て、俺の手からすり抜けた!」 拳を握り、柔らかい寝台へ叩きつける。何の痛みもないその行為に、意味などなかった。それでも、叩きつけずにはいられなかった。 「拒まれた。もう、こんな体は、いらない。俺の、存在も」 それなのに、死ぬ事を恐れている。二度と会えなくなることを恐れている。 紫色の瞳からとめどなく溢れる涙を見て、堪え切れなくなった星刻は、震えている肩を引き寄せ、薄く冷えた背中に腕を回した。 「君は、いつも泣いているな」 「何………」 「しばらく、ここで休んでいくといい。今の君は、私の客人としての扱いだ。“ゼロ”ではない、ただの、ルルーシュ。ここは、安全だ」 腕を離し、体を離して、用意しておいた茶器へ手を伸ばす。 「少し冷めてしまったかもしれないが、飲むか?」 信じられないものを見るような眼で、ルルーシュが星刻を見、腕を伸ばした。まるで、縋るように。 ![]() 黎星刻と女体化ルルシリーズ(?)です。 もういっそシリーズ化して長編部屋に入れようか?とか思ってるんですけど。 一人星刻祭りですよ。長髪黒髪男大好き!! 今回は本編TURN6の後、を意識して書いてみました。 ナナリーに拒絶されて愕然とするルル。その悲しみを癒すのは誰!?みたいな。 あ、女体化だと星刻ですが、男だとロロにやってもらおうかと思います。(それも書いた) 今回は、星刻に「下郎が」って言わせたかっただけだったり。 そして、まだまだ続きます。次はえにょですぅ〜 あ、タイトルは適当に読んでください。中国語っぽくしたかったんですけど、無理でした。 因みに“会遇”の読みは“かいぐう”。めぐりあう、と言う意味です。 2008/5/13初出 |