一つ、一つ、白い釦に手をかけて、外す。手間取っている細い指を見て、苦笑いを零す。 「何だ」 「いや。慣れているとあまり思わないのだが、難しいのかな?」 憮然とした表情のルルーシュを見下ろして、細い指を掴む。その手を下ろさせて、厄介な自分の衣服を手早く脱ぐ。 「軍人、らしいな」 幅の広い肩、力強い腕、引き締まった体。目の前にあるそれに触れて、肩に額を押しつける。 「やめるか?」 「いい。今は、何もかも、忘れたい。お前なら、優しそうだ」 押し付けていた額を離し、無理に笑顔を浮かべて見せれば、頬を撫でられ、唇を重ねられる。 「んっ………」 優しい口づけ。頬に触れている手が、そっと、肩にかかったシャツを落とし、袖から腕を抜く。肩を支えられ、衝撃が与えられないようにと、柔らかい布団の上へ押し倒される。 寒さが、和らぐ。悲しさが、和らぐ。 「ふっ…んぅ」 口づけを繰り返し、肌を合わせる。引き寄せるように、首に腕を回す。 温かかった。人の温もりに、涙が零れた。 「ルルーシュ?」 「っ………何、でもない…」 「やはり…」 「大、丈夫だ。温かいと、思っただけだ」 触れていなかった人の温もり。欺く事に慣れ、裏切る事に慣れ、裏切られる事に慣れて、凍っていた心が溶け出した、涙。 「星刻」 驚いたように、星刻がルルーシュを見下ろし、微笑む。 「初めて、私の名前を呼んでくれたな」 柔らかい髪を撫でて、短い髪を梳く。涙ごとその瞳を掬うように、眦と瞼を舐める。涙の痕を辿り、頬、首筋、肩へと口づけを落とし、白い肌へ赤い痕を残す。 偽りでもいい。慰めあいでも構わない。せめて、この一瞬、この一時だけは、彼女は自分のものだと。 赤い花弁の散った白い肌、涙に濡れる紫色の瞳、柔らかく撓る細い体。 指を絡め、体を絡める。 「あっ…んっ…」 「っ………ルルーシュ」 彼女の、本当の名前。知っているのは、ファーストネームのみ。それでも、それだけでよかった。それ以上を知りたいとは、思わない。 今は、この赤い天幕に囲われたここが、二人にとっての世界だ。ここで、互いを感じあえればいい。 「はぁっ………あっ!まっ、も、う…」 震えている細い足の先が、白いシーツを掻き乱す。痙攣するように震える体が、星刻に縋りつく。 「あっ!………あっ…」 ひくりと、喉を鳴らすように撓った体が、星刻を包み込み、耐え切れずに、温かいそこへと、欲望を吐き出す。 「っ…、すまない」 そこまでするつもりはなかったと、急いで離れようとすると、腕が伸ばされて、肩を掴まれる。 「ま………まだ、離れ…」 「寒い、のか?」 絡めた指が、震えている。戦慄いた唇が引き結ばれ、首が縦に振られた。 細い体を抱きしめて、抱えあげる。 「っ!?」 「爪を立てて構わない」 「えっ!?あっ!ああんっ!」 ぐちゅりと、音を立てて穿たれた熱さに、全身が震える。足の先から頭まで貫くような快感が駆け巡り、ルルーシュは無意識のうちに、目の前にある肩へしがみついた。 広い背中へ腕を回し、強さと熱さに飲み込まれないようにと、唇をかむ。だが、それだけでは声が漏れ、熱情に振り回されるばかりだった。 「っ!ルルーシュ?」 かぷりと、ルルーシュが星刻の肩に咬みついていた。細い腕で必死にしがみつく様に、薄い背中を撫でてやる。 「大丈夫。大丈夫だ」 「んっ………」 震えている体が収まるのを待ち、腰を突き上げる。 「ふあっ!」 肌を合わせた場所から、鼓動が伝わってくる。 痛いほどに早鐘を打つその心の臓の音が、いっそ重なってしまえばいいと、星刻は目の前にある体を、強く抱き寄せる。 「ルルーシュ………ルルーシュ」 言葉など、すぐに嘘になる。偽りになる。だが、名前だけは歪みもなく届くはずだと、繰り返し口にする。 熱が伝わり、快楽を分け合い、唇を重ねて、溶け合った。 腕の中に収まるルルーシュが、星刻の長い髪を弄っている。 「昔は…俺の髪も、長かった」 「想像がつかないが」 「お前ほどとはいかないが、腰より少し上まではあった」 柔らかい黒い髪。伸ばせば、さぞかし美しいだろうと、頭を撫でる。 「きっと、あの頃が、一番幸せだった。何も知らず、無邪気に、笑っていられた。優しい母と、元気な妹が………っ」 「ルルーシュ?」 「妹に、拒絶された。俺は、間違っていると。ずっと、彼女を守るためだけに、男を演じてきた。そのために“ゼロ”になった。ただ、あの子の周りだけは、幸せで、優しくて、穏やかであれと………」 「君はそれで、幸せなのか?君自身の幸せはどこにある?」 「俺に、幸せになる権利なんか、ない。大勢、殺してきた」 「殺した人間が幸せになれないと言うのなら、私も同罪だな」 「何?」 「私は軍人だ。それこそ、大宦官の命で、罪無き人々をこの手にかけたこともある。敵国の人間を屠ったことも。それは確かに仕事だった。だが、結局は人殺し。君と何ら、変わらない」 「同じ、か?」 「ああ。同じだろう。世の中の人々は、多かれ少なかれ、誰かを殺している。肉体的にだけでなく、精神的に。心を殺してしまう事もまた、罪だろう」 「そう、か………」 「?」 「お前は、優しいな」 ふわりと笑ったルルーシュに、どこか、罪悪感のようなものを感じたが、星刻はそれから眼をそらし、細い体を抱きしめた。 せめて、今、一時だけは、穏やかに………と。 ![]() 黎星刻と女体化ルルシリーズ(?)です。 ようやくのえにょ。久しぶりに書いたら物凄く苦心した。 絶対ピロートーク入れたくて、無理矢理入れてみたら、もう一個入れたかったネタを忘れました。(爆) 次書くのに入れます。きっと。 そして次は!!とうとうくろるぎさんの登場ですよ!!さあ、ルルの取りあいだ! 本当はシュナ兄様も絡ませて三つ巴にしたいんですが。 兄様にはルルの過去にだけ登場してもらおうと思います。一番厄介なんで。 今回のタイトルは「愛惜」=おしんで大切にすること、非情に深く愛すること。と… 「痛哭」=悲しんで、声をたてて泣くこと。の、二つを。辞書引くのは楽しいですね。 2008/5/14初出 |