例えば、神様だとか、仏様だとか、目に見えない何かに祈り、縋ったことはない。一番助けて欲しかった時に、一番救いが欲しかった時に、何もしてくれなかった神や仏など、縋りたいとは思わない。 縋りたい、と思うものを作ってはいけない。それは、弱さでしかない。 自分は、一人で立たなくてはいけない。だから……… 優しいだけの男になるつもりはなかった。だが、彼女が求めているのは、その優しさと温もりなのだと言うことにも、気がついてしまった。 傷つけられ、貶められて、寒いと呟くその声に、何が出来ただろう。縋りつくような手を振り払うことが、出来なかった。 ただ、傷を舐めてやっているだけだと、慰めてやっているだけだと、本当の意味でその傷を塞いでやることなど出来ないのだと知りながら、溺れることが出来るように、優しさだけを見せた。 卑怯だと、残酷な事だと、承知していた。 それで立てなくなるほどに、彼女は弱くないと、過信していたのかもしれない。 人は誰しも、強さだけを持っているわけではないのに……… アッシュフォード学園構内に建つクラブハウス。その中の一部に、ルルーシュの住んでいる部屋がある。高い場所に日のある時間、そこは無人になる。 隠れるように、と言うわけではないが、幾分か足音を控えて自室へと戻る。誰かに気づかれる懼れもないだろう。既に、機密情報局はロロも 含め、掌握済みだった。 空気の抜けるような音を立てて部屋の扉が開き、一歩足を踏み入れた所で、ルルーシュは動きを止めた。 「ス、ザク…?」 当たり前のように、普段ルルーシュが使用している勉強机の椅子に座った、枢木スザクがいる。まるで、自分こそがこの部屋の主ででもあるかのように。 「お帰り、ルルーシュ」 「あ、ああ…お前、学校は?」 「行ったけど、君がいないって言うから、どうしたのかな、と思って。そしたら、家にもいないじゃない?心配したんだよ」 「そうか。少し、用があって、な」 平静を装いながら、上着を脱ぐ。それをクローゼットに仕舞いながら、側にかかっている学生服を掴んだ手を、いつの間にか後ろに忍び寄っていたスザクの手が伸びてきて、掴んだ。 「ルルーシュ、テレビ、見た?」 「テレビ?いや、見てないが?」 「新総督が着任したんだよ」 「そうなのか。なら、お前は護衛とか、しなくていいのか?」 「今は、別のラウンズがしてるよ。僕は非番」 「………手を、離してくれないか?」 「シャンプー、変えたの?」 「は?」 「匂いが違う」 掴まれた腕を強く引かれ、そのまま床へ引きずり倒されたルルーシュは、自分の上へと体重をかけてくるスザクを振り返ろうとして、やめた。 気配が、狂気と殺意に満ちていたから。 「裏切るんだね、やっぱり」 「何の、ことだ?」 「僕を裏切るんでしょう?でも、絶対にナナリーは殺させない。僕が守る」 「だから、何の………」 「もう、嘘をつくのはやめようよ。思い出してるくせに、全部。君が、クロヴィス殿下を、ユフィを殺したんだ。この手で。酷いよね。自分の兄と妹を殺すなんて。最低だよ」 「俺は、しらな…っ!」 ぐい、と髪を掴まれて顔を上げさせられる。無理な姿勢を強いられて苦しい呼吸の間で、ルルーシュはどうにか事態を打開しなくてはと、腕を動かそうとした。だが、スザクは一向にどく気配がない。むしろ、更に力を加えているようだった。 「君は罰を受けなくてはならない。大勢の人を巻き込んで、殺めて、悲しませて、苦しませた罰を」 「ス、ザク!痛いっ!」 「痛い?痛くないと、罰じゃないだろう?」 髪から手を離し、ルルーシュの体を仰向けにすると、スザクはその両腕を頭上でまとめて押さえつけ、腰の上辺りに座り込んで足を封じ、空いている手でルルーシュの履いているパンツに手を伸ばした。 「やめろ、スザク!」 「やめない。君はまた大勢を殺めて、悲しませて、苦しませようとしている。そんなことが出来ないように、君が二度と裏切らないように、繋ぎとめておかないと」 ジッパーをさげ、シャツの下から手を入れて、捲り上げる。 「何、これ?」 白い肌の所々に散っている赤い痕に、スザクの表情が一変する。 「ふぅん。もう、そう言う相手を見つけた、ってわけ?お盛んだね、君も」 ひやりとした視線で見下ろすスザクは、捲り上げたシャツを脱がせ、それで押さえつけていた腕を括ってしまうと、下着とパンツに手をかけた。 「だったら、僕にされるくらい、なんてことないだろ?」 こつん、と言う小さな音がして、脱がされかけたパンツのポケットから、何かが転がりだす。は、と気づいたルルーシュがそちらへ視線を向けるより先に、スザクがそれを拾い上げた。 「水晶?何?そう言う趣味あったっけ?」 「スザク!これを解け!」 「嫌だよ」 拾い上げたそれを無造作に放り投げ、どこかへと転がっていくそれを目で追おうとしたルルーシュの視界を、スザクが片手で塞いでしまう。 「呼んでごらんよ、君にこんな痕をつけた相手の名前。僕が、殺してきてあげるからさ」 足を広げられ、体が軋む。痛みと悲しみだけがルルーシュを襲い、涙が頬を伝い落ちる。 白く弾ける意識の最中、優しく触れてくれた手を思い出していた。 雨粒が、窓を叩きつける。その音を煩わしいと思っていると、机上に置いた携帯電話が鳴り響いた。 「はい?」 相手を確認せずに出ると、雨の音が聞こえた。 声がない。一度耳から離して液晶を見れば、電話番号が表示されていた。 「ルルーシュ?」 雨の音。それに混じり、ひくりと、息を呑むような音。 微かな、掠れた声。雨の音に混じるほどに聴き取りづらいか細い声が、名前を呼んだ。 まるで、泣いているように、聞こえた。 ![]() この話から、長編部屋での連載になります。 そして、今までなるべく本編沿いになるようにと書いて来ましたが… 恐らく、ここから完全に本編を離脱すると思います。 少しでも近づくように努力はしたいと思いますが。 まあ、何分女体化なので、今更本編も何もないとは思うのですけれども。 スザクは完全に壊れてる感じです。後、1、2回は出てくるかな?? 2008/6/1初出 |