ナイトメアを操るより、戦場を駆けるより、改革を起すより、難しい事があることを知った。 愛しいと想う相手を、想い続けること。 そして、そのことを言葉にし、伝えること。 背凭れに背を預けて天井を仰ぐ。無機質なコンクリートの天井。それを眺めてから目を閉じ、駆動音に耳を傾ける。 耳を打つのは、船が進む時のエンジン音によく似た音。だが、その中に時折混じるのは、壁の向こう側にいる“黒の騎士団”の誰かの声だろうか。それが誰の声かまでは判断がつかないが、言い合いをしているのだろうことは想像がついた。 “ゼロ”の打ち出した新たな作戦。その作戦に、思う所がある者もいるだろう。だが、情けや義理を重んじる日本人の気質に賭ければ、決して通らない作戦案とは思えなかった。 雑音にしか聞こえない人々の声を払いのけ、駆動音にのみ耳を集中していると、まるでそれが子守唄のようにも聞こえてくるから不思議だ。乱れのない一定の音と言うのは、どんなものであれ眠気を誘うものなのか………と、肌に感じたひやりとした感触で目を開ける。 「何、寝てるの」 紅い髪のよく目立つ顔が、見下ろしていた。頬に、アイスコーヒーか何かが入っているのだろう、冷たいカップが当てられていた。 「いや、寝てはいない」 紅月カレン…“ゼロ”の親衛隊隊長であり、紅蓮弐式を操るナイトメアのパイロット。“黒の騎士団”の中では、奇跡の藤堂と肩を並べられるだけの技術を持っていた。いや、もしかすると、それ以上か……… 「あんた、どっか調子悪いの?」 仮面を外している“ゼロ”ではない、“ルルーシュ”の時に、カレンはぞんざいな口調で話すようになった。“ルルーシュ”に払う敬意はないとで言うように。 「いや、どこも悪くないが?」 「最近、よくここで寝てるじゃない」 「慣れない環境だ。疲れてるだけだろ」 「なら、いいけど………」 「何だ、心配か?」 「っ…“ゼロ”に倒れられたら困るのよ!」 頬を赤くして怒鳴るカレンに、苦笑しながらカップを受け取り口をつける。 「C.C.は?」 「C.C.なら面白そうに皆の会議を見てる」 「そうか」 「呼ぶ?」 「いや、今はまだいい」 「………中華連邦の、天子の政略結婚、どうするの?」 「大宦官達が先走って、ブリタニアと手を結ぼうとした結果だろう。潰すべきだな。日本の隣国なんだから」 「………あんたは、私達のこと、イレブンとも、日本のことエリア11とも呼ばないのね」 「呼んで欲しいのか?」 「嫌よ!」 叫んだカレンに肩を竦めてカップを置き、立ち上がる。 「そろそろ紛糾している頃かな…収めに行くか」 「あんた、楽しんでるでしょう?」 「そうだと言ったら?」 「………最低」 小さく呟いたカレンに自嘲の笑みを浮かべて返し、仮面を被ると、“ルルーシュ”は“ゼロ”になった。 朱禁城におられる天子様をお一人にしてまで、大宦官達が勢揃いして出迎えたのは、ブリタニア帝国宰相、シュナイゼル・エル・ブリタニアだった。 どこまで媚びる気なのだ………と、星刻は鋭い視線を、タラップを降りてくる男へ向ける。 金色の髪、澄んだような青紫色の瞳、まさに皇子と呼ぶべき容貌、立ち居振る舞いだった。だが、どこか納得できないような思いを抱くのは何故なのか。 そう。眼に、優しさがないのだ。表面上は酷く穏やかで、優しく見えるが、その瞳は奥底が知れない。まるで、闇を抱え持ってでもいるかのような……… この男の兄であると言う第一皇子が、天子様の政略結婚の相手。一体全体、どんな男なのか。この男の兄と言うならば、更に年齢は上だろう。天子様とは、一回り以上などと言う言葉では足らないほどに、年齢が離れすぎている。 人身御供。そんな言葉が頭を過ぎり、嫌な考えを打ち消すように、視線を動かす。 ふと、殺気のようなものを感じ、動かした視線を巡らせば、青いマントが翻る。 「………あの男………」 周囲に聞かれないように低く呟く。 確か、枢木スザク。皇帝直属のナイトオブラウンズ、セブンの肩書きを持つ男。 そして、ルルーシュの心に、消えない傷を負わせた男。 明確な言葉にしなくとも、分かっていた。あの男との間に、何かがあったのだと。それを深く追求しなかったのは、自分が知りたくなかったからだ。語らせたくなかったからだ。 自分の心は、何よりもまず天子様に捧げるべきなのだと。この命を与えてくださったのは、天子様だ。だからこそ、この心は全て、天子様に預けるべきなのだと。 他の誰かを住まわせる余裕など、ない。住まわせては、いけないのだと。そう、強く願い、それをこれまで頑なに守ってきた。そうすることで、天子様との約束を果たす事が出来る、と。他の誰かに心を許せば、天子様との約束を違えることになるのではないか、と。 それなのに、時折胸を過ぎる影は、姿は、確かに彼女の姿をしていて……… 一体、自分は何を考えているのかと、叱咤する。 考えるべきは、憂うべきは、今目の前にある我が国の危機。それ以外に、思考をめぐらせてはいけない。 どさり、と音がした方へ、全員の視線が向いた。誰よりも先に動いたのは、琥珀色の瞳を驚愕に見開いた少女。 「ゼロ!」 気づいたカレンが声を上げ、駆け寄る。 漆黒の体が、床に落ちていた。 ![]() 星刻の天子様への思いは純粋な主従関係。 でもそれゆえに裏切れないと言うか、それ以外を考えちゃいけない、とか言う生真面目な部分があるのかな、と。 ので、星刻の心の揺れ様、を書きたかったのです、が… タイトルに苦心しました。中々いいのが見つからなくて。 そのままですね。と言うわけで、まだ続きます。 2008/6/14初出 |