医師が立ち去り、様子を見てくるとC.C.がいなくなった沈黙の支配するその場所で、最初に口を開いたのは、将軍である藤堂だった。 「まさか、“ゼロ”が女性とは………」 それは、誰もの胸に過ぎる思いだった。全員が全員、“ゼロ”は男だと、疑っていなかったからだ。 正体を知られぬために仮面で顔を隠しているのならば、声とて変声機を使っている可能性はあった。だが、あそこまでの緻密な作戦、敵に対しての容赦ない攻撃方法など、数え上げればきりのない、どちらかと言えば冷酷無比にとられるだろう行動は、女性ではありえないと言う結論を、彼らの脳裏に刻んでいたのだ。 扇の視線が動き、カレンで止まる。 「カレンは、知っていたのか?」 「………ごめんなさい」 「いや、責めてるわけじゃない。顔を、見たことは?」 「ある」 全員の視線がカレンに集中する。カレンは一つ溜息をついて、口を開いた。 「“ゼロ”は確かに女性で、日本人でもないけど、もしかしたら日本を解放すると言うのは、あの人の目的の途中経過でしかないのかもしれないけど、でも、信用できる人だから」 「彼………いえ、彼女でしたね。“ゼロ”には別の目的が?」 「うん」 ディートハルトの問いに頷き、それを聞きたがっている全員に対して、今度は、カレンは首を左右に振った。それは、言えないと言うことだろう。 「ところで、大事なこと忘れてると思うんだけどさ」 朝比奈が手を上げて、全員の意識を自分へと促す。 「“ゼロ”の相手って、誰なのさ。まさか、“敵”に回る人間じゃないだろうね?」 そこのところ君は知ってるの?と、朝比奈が問うと、カレンは視線を背けた。 「紅月、答えろ」 千葉の鋭い声に、カレンは顔を上げた。 「多分、違うと思う」 「多分?」 「言わないから、“ゼロ”は。だから、私の想像だけど“敵”ではないと思う。あの人の、人を見る眼は確かだから」 「にしたって、水臭いわよねぇ〜。もうちょっと私達のこと、信用してくれてもいいんじゃなぁい?」 ラクシャータが煙管を振り回しながら、言う。それは、その場に居る全員が思っていることだった。 せめて、もう少し、頼ってはくれないだろうか、と。 「不謹慎だけどさ、“ゼロ”って美人?」 「朝比奈………」 「だって、興味ありません?藤堂さんも」 「………全くないとは、言えないが。今それは必要なことではないだろう」 「ね、見た事あるんでしょ?ど?」 朝比奈の言葉に、カレンは視線を彷徨わせて、頷いた。 「美人なんだ。へぇ〜」 頷いている朝比奈の横で、千葉が何事か呟いたが、それは誰にも聞こえなかった。 そこへ“ゼロ”の私室からC.C.が出てくる。 「カレン、迎えが来たから、裏口まで護衛を頼む」 「何で私がっ!」 「あいつはまだ眠ってる。あの男にはあいつを連れて行ってもらわなければいけないから両手が塞がるだろうし、私では心許ないだろう?顔を知っているのは、他にお前だけだ」 「………わかった」 カレンが立ち上がり、“ゼロ”の私室へと消える。まるでそれを追いかけるように朝比奈が立ち上がった。 「おい、朝比奈」 「見たいじゃないですか、相手の顔を。紅月はああ言ったけど、本当に“敵”じゃないかを、見極めないと」 朝比奈の言葉に、千葉が頷きながら立ち上がる。それはただの野次馬根性なのではないか、と藤堂が腕を組んでいる内に、ラクシャータが立ち上がった。 「行きましょうか。楽しそうだもの」 煙管を口に銜えたラクシャータが、楽しそうに口端をあげる。 “ゼロ”の私室へは入れない彼らは、ぞろぞろと表へと周り、斑鳩の“ゼロ”専用出入口、通称“裏口”へと急いだ。 止まっているのは、黒塗りの高級車。一番下に千葉、朝比奈、ラクシャータ、そして扇の順に顔が乗り、四人は体を隠して影からその高級車を見つけた。 藤堂とディートハルトは、来なかった。 「見づらいわねぇ〜」 「しょうがないでしょ、灯が最低限しかないし」 「静かに」 千葉がラクシャータと朝比奈の軽口を制する。ちょうど、後部座席を閉めた人影が、こちらを向いた所だった。だが、よくよく眼を凝らすと、それはカレンのようだった。 「何だ。もう乗っちゃったのか」 朝比奈が残念そうに言う。どうも“ゼロ”と相手の男は、車に乗り込んだ後らしい。 「絶対に、傷つけないでよ」 「ああ」 かろうじて、声が聞こえる位置。聞いたことのある声だな、と四人ともが思ったものの、誰だかはわからなかった。決して、聞きなれた声ではない、と。 「で、お前、そいつを抱いたんだろ?」 「………何故それを、君に話さねばならない?」 「C.C.あんた、何でそんなに気になるの?」 「そいつに想いを寄せる男は大勢いるからな」 “ゼロ”って、そんなにもてるんだ………と、四人は顔を見合わせる。ならば、相当の美人、ってことじゃないか?と。 「守ってやれ。お前が本当に、そいつを大切に思うなら」 「私に、その権利はないように思うがな」 「何を、今更。そいつが腕を伸ばした相手がお前だった。それは事実だろう」 「自惚れてもいい、と聞こえるが?」 「そう聞こえなかったか?」 「そうか。ならば、自惚れさせてもらおう。出してくれ」 カレンとC.C.が車から離れ、車が発進する。目の前を過ぎていく車の窓にはスモークが張られていて、相手の顔も運転手の顔も見る事は、かなわなかった。 「声だけじゃわかんないよ」 「あーあ。残念」 「けど、悪い人間ではなさそうに聞こえたな」 「扇、お前は甘いな」 ラクシャータが歩き出し、朝比奈が頭の後ろで腕を組む。横を通り抜けていく千葉に、甘いと言われた扇は、肩を落とした。 ![]() 共通の番外編で、“虧盈”の後の幹部達の様子、です。 野次馬根性で出向くギャグに使用と思ったんですけど…シリアスに。 藤堂が来ないのは他人の秘密を暴くなど!と言う男気溢れる理由からです。 ディートハルトが来ないのは“ゼロ”は“ゼロ”でいいと思っているからです。 朝比奈とラクシャータはギャグ要員だと思っています。 因みに。車の運転をしているのは香凛です。香凛がやたら出てくるのは私が好きだからです。 2008/7/28初出 |