冷え切った洞窟の中で、一人膝を抱えて頭を下へ向けている姿を見つけて、溜息をつく。 「今回は、いつも以上に性質が悪い上に本気だったな」 「何をしに来たの?」 「別に。ただ、随分とあっさり引いたと思ってな」 顔を上げたV.V.の目には、数時間前の鋭さも殺気もない。やれやれと肩を落としたC.C.は、座っているV.V.の横へ腰を下ろした。 「羨ましいよ、彼が」 「ルルーシュか?」 「僕達の血は濃くて強すぎて、騎士を作れない。死んだ人間に対してしか、効力がない」 「生きた人間に与えると、私達の血は威力が大きくて殺してしまうからな」 「どんなに子供を作ったって、皆離れていく。自分の騎士を作って、次から次に。僕はいつまででも一人だよ」 「だからって、全部殺すと言うのは短絡的だな」 「すっきりするじゃないか。誰も、裏切らない」 「馬鹿だな」 「君に言われたくないよ」 立ち上がったC.C.は、まだ落ち込んだように肩を落としているV.V.の頭を軽く叩いた。 「うじうじするな、男らしくない。私は世界一周の旅にでも行くが、お前はここで一人引きこもるか?」 「………僕も、行こうかな」 「そうしろ。こんな場所で膝を抱えているから考えが暗くなるんだ」 「どこへ行くの?」 「そうだな…まずは近場で中華連邦辺りか。ブリタニア本国辺りへも足を伸ばしたいが、まあ、長い生だ。時間はたっぷりある」 「一緒に行ってもいいかな?」 「まあ、たまにはそう言う旅もいい、か。この国では、旅は道連れ、世は情け、と言うらしい」 「何、それ?」 「さあ?」 肩を竦めて微笑するC.C.に、ようやくV.V.は口元に笑みを乗せて、立ち上がった。 傷の塞がった背中を鏡で確かめ、白いシャツを羽織る。まだだるい体を何とかするには、血が必要だった。 「大丈夫かい?気分は?」 「最悪だ」 部屋に入ってきたシュナイゼルを頭から足先まで眺め、手招く。 「何かな?」 「座れ」 ベッドの端に座るように指示し、見下ろして仁王立ちになる。 「服を脱げ」 「それは、お誘いかな?」 「は?いいからとっとと脱げ。ああ、上だけでいいぞ」 一体何をする気なのかと思いながら、主であるルルーシュの言葉に背く気など全くないシュナイゼルは、着ていたシャツを脱ぐ。 すると、シュナイゼルの肩を押して上に乗ったルルーシュが、牙を剥いた。 「っ!」 心臓の、側近く。薄い皮膚を突き破られ、肉に到達する痛みに息を呑む。指が廻る筋を辿るように、血管の上を這うように動いて、あちらこちらに爪を立てる。 「ル、ルーシュ…」 無我夢中と言う風に牙を立て、爪を立てる獣のようなルルーシュの姿に、それでもその姿が綺麗だと思う自分は、もう引き返すことが出来ないくらいに惚れこんで浸っているのだと、再認識する。 「んっ………うまい」 満足そうに赤い下で唇についた血を舐めて顔をあげたルルーシュに、苦笑する。 「それは、どうも。しかし、何故、首からじゃないんだい?」 「ここが一番うまいんだ」 「心臓の側、が?」 「ああ。命を生み出す、血を巡らす場所だろう?生命力に溢れている。もっと呑んでいいか?」 ちろりと、滲んでいる血を舐めるために出された赤い舌が艶かしく、上に乗っているルルーシュの腰を掴んで引き寄せる。 「幾らでもどうぞ」 「何やってんの、ルルーシュ!」 「ああ、スザク」 部屋に入ってきたスザクが、急いで近づいてきて、軽々とルルーシュの体を抱えあげると、シュナイゼルの上からどかし、離れた場所へ座らせる。 「何やってんの?何でこの人の上に乗ってるの!?」 「何って、血を呑んでただけだ。ああ、お前も上を脱げ」 「はい?」 「いいからとっとと脱げ。脱がないなら俺が脱がしてやる」 スザクの着ているシャツのボタンに手をかけようとするルルーシュの腕を掴んで止め、スザクは慌てる。 「ちょ、待ってよ!脱ぐ、脱ぐから!でも、何で!?何で脱がないとなんないの?」 「ここから血を呑むんだ。別に服の上からでもいいが、破けたら勿体無いだろう?」 とん、とスザクの心臓の上をさして、汚したり破いたりしたくなければさっさと脱げ、と言うルルーシュの言葉に従って服を脱ぐと、立ったままだと呑みにくい、と言われてベッドの上に押し倒される。 「いたっ!ちょっ、ルルーシュ!」 「五月蝿い。シュナイゼルは喚かなかったぞ」 「っ………」 シュナイゼルを引き合いに出されて黙り込んだスザクの胸に牙を立てて、溢れ出す血を啜る。甘いその血が自分の体の中を廻ってゆく感覚が、餓えていた本能を満たしていく。 恍惚に浸るように濡れた紫色の瞳と、血を舐めとる時に時折覗く赤い舌が酷く卑猥に見えて、スザクは深く溜息をつく。 「拷問だ」 「………ん?何だって?」 顔を上げて唇を舐めるルルーシュは、きっと無意識にそういうことをしているんだろうな、と思えて、スザクはもう一度深く溜息をつく。 「拷問だ、って言ったの」 「何でだ?痛いからか?」 「違うよ」 血管の上に立てた爪についていた血を舐めていたルルーシュの腕を掴んで引き倒し、今度はスザクがルルーシュの上に乗る。 「あのね、ルルーシュのことを好きだって言ったでしょ?」 「ああ。言っていたな」 「僕はね、君とセックスしたい、って意味で好きなんだけど」 「………………はぁあああ!?」 素っ頓狂な声を出して驚くルルーシュに、スザクは肩を落とした。 「やっぱり分かってなかったんだ。だからね、こんな風に上に乗られちゃうと、理性が飛びそうになるわけ。分かる?」 「私だって我慢したんだから、君が我慢しないでどうするんだ」 「僕の方が若いですから、我慢が利かないんですよ」 横から顔を出してくるシュナイゼルとスザクを交互に見たルルーシュが、腕を掴んでいるスザクの手を振り払い、体を起す。 「わ、分かった!じゃあ、二度とこういう呑み方はしない!」 「………それならそれでいいけど。で、君はどう?」 「何がだ?」 「僕達のこと、好き?言ってくれたよね、僕達が死んだら自分も死ぬって。凄く嬉しかった」 「愛の告白だと思ったのだけれど、どうだったのかな?」 「あ、あれは………」 「あれは?」 覗きこんでくる二人の視線から逃げるように、ルルーシュはじりじりとベッドの上で移動し、顔を背ける。 「き………」 「き?」 「嫌いじゃ、ない。嫌いなら、とっくに追い出してる!」 真っ赤になって言い放ったルルーシュが、そのままベッドから飛び降りて部屋を出て行く。残された二人は顔を見合わせて、肩を竦めた。 「時間、かかりそうですね」 「まあ、でも、性急過ぎると嫌がられそうだからね」 真っ赤になったルルーシュは可愛かったな、などと思いながら、とりあえず二人は服を着た。 ![]() 長らくのお付き合い、ありがとうございました。 この第四部にて、吸血鬼シリーズは完結となります。 すいません。えにょを入れられませんでした。その点は猛反省です。 しかし、この作品の目的は、ルルーシュが「生きる」と決める事が目標地点でしたので、一応の目標は達せました。 死にたがりなルルーシュがどうやって「生きよう」「生きたい」と思えるか。それには、自分を大切に思ってくれる存在が必要だと思ったのです。 あの、えにょとか、ほのぼのな三人は機会があれば番外編で書きたいです、また、是非。 それと、最後の“心臓の間近に牙を立てる”シーンですが……… 参考資料として説明頁に記載した本に載っていたんです。吸血鬼の吸血行為はシンボリズムなので、生命力の溢れる心臓の側が多い、と言うようなことが… もしも興味のある方、そちらを読んでみてください。どの本かは忘れましたが………(すいません) V.V.にフォロー入れようと思ったらぎちぎちになっちゃいました。R2見てる限り、あんまり優しいフォローは必要なかったかしら?とか。 三人で仲良くあっちこっちお出かけすればいいよ、と思います。そんで未来永劫いちゃいちゃしてればいい。 タイトルは、スザクとシュナイゼルにとっての「君がため」であり、ルルーシュにとって二人への「君(達)がため」です。 2008/5/18初出 |