スザクとシュナイゼルの首筋から、交互に血を吸って満足したのか、ルルーシュはそのままもう一度ベッドへ直行した。気分がいい、といって、目を閉じる。昼間に眠るのとは違う、まどろむようなルルーシュに、二人は苦笑した。 「彼は、やはりずっと、どこかで寂しかったのだろうね」 「多分」 「私達が枷になってしまったのも、やはり強引だったかな」 「強引でしょうね。特に、貴方は」 「あれは君も共犯だろう?」 「あの時は、ルルーシュの自殺願望みたいなものを止めるには、それしかないと思ったので」 「しかし、これでは生殺しだ」 「まだ、答えを聞いていないし」 好きだと、恋をしていると言ったのに、その単語は完全にスルーされているのか、明確な回答はルルーシュから今のところ貰っていない。 別に、どちらかを恋人にしろとか、選べとか言うことではない。その気持ちを受け入れてもらえるのかどうか、ただそれだけだった。受け入れられなかったからといって、離れるつもりは二人とも、毛頭なかったが。 「便利だね、騎士の血の束縛は。例えふられたとしても、側にいることができる」 「僕は自信、ありますよ」 「おや。強気だね」 「貴方より長く一緒に居ますから」 「年月では君に叶わないかもしれないが、思いで負けるつもりはないよ」 二人の視線の交差する間で、見えない火花が散る。もしもこの状態をルルーシュが起きて見ていたら、一言、馬鹿か、と言われただろうが、幸い、ルルーシュはまどろんでいる。聞かれる心配も、見られる心配もなかった。 「で、材料は調達できたのかい?」 「ええ。何発か弾丸を作って、装填してありますよ」 言いながら、スザクは着ていた上着の内側につけていたホルスターに収めた拳銃を見せる。 「数はそう多く作れませんでしたけど、二種類計四十発はありますから」 「凄いね」 スザクは二挺ある拳銃の内の一挺をシュナイゼルに渡す。 「使えますか?」 「大丈夫だ」 受け取った拳銃のグリップを握り、確かめる。久しぶりに握るその鋼鉄の感触に、少なからず懐かしみがあり、シュナイゼルは自嘲した。 争いを好むブリタニア皇族の血が、やはり自分の中には流れているのだろうか、と。侵略戦争を繰り返したブリタニア皇族には、争いを好む者が少なからずいる。その血が、自分の中にも確かに流れているのだと、こう言う時には思い知らされる。 「それにしても、始祖、か………一体、どこがどう違うのだろうね、彼と」 「さあ?C.C.に詳しく聞ければありがたかったんですけど、彼女も自分が本当にどう言う存在なのか、知らないようだったし」 始祖のようなもの、と言う表現は、C.C.自身が自分の存在定義を曖昧にしか捉えることが出来ていない、という証拠ではないだろうか。 ならば、V.V.はどこまで自分自身のことを捉えることが出来ているのだろうか。彼が自分自身を知り尽くしていると言うのならば、こちらには対抗できる手段が少なくなる可能性がある。 「以前、貴方が持ってきたディスク。あれにC.C.の情報は入っていないんですか?」 「入っていなかったと思うね。入っていたとしても、彼と同程度の情報しか、入っていない。ブリタニアの研究所とは言っても内密なもので、大々的な研究が出来ていたわけではないからね」 秘密裏に進められていた“永遠の命”の研究。それは、確かに優秀な科学者らが関わっていたのだろうが、あまりに秘匿レベルが高かったために、関わっている人数が少なく、進展具合は良好とは言えなかったのだろう。吸血鬼の特色程度しか、データはないのだ。 そっと、眠るルルーシュの髪を梳く。 「彼の姿を初めて写真で見た時は、こんな風に側にいることができるなど、思いもしなかったよ」 「これから先も側に居るためには、脅威となる存在を退ける必要がありますよ」 「分かっているさ」 窓の外、夜の中を吹きぬける風が、強くなってきていた。 漆黒の闇の中、まるで電気の爆ぜるような音が響く。そんな音が数回響いた後、夜の闇より濃く、深い色をしたような赤い血が、地面へと落ちた。 「しつこいよ、C.C.」 手についた血を、腕を振って落とす。そんなV.V.に顔を向け、C.C.は傷ついた箇所へ手をあて、修復を促す。 「お前こそ、いい加減諦めろ」 「嫌だよ。僕は、僕のあるべき場所へ帰る。そのためには、全ての吸血鬼を殺してしまわないとね。君は、最後だよ」 「簡単な方から消していく、というわけか?臆病だな」 「臆病?戦略的といって欲しいな。弱い所から叩くのは、定石だろう?」 「ルルーシュが弱いと思っているのか?もしもそうならば、その考えは改めたほうがいい」 「騎士が、二人もいるから?あんなの僕の敵じゃないよ」 「どうかな」 足を振り上げ、V.V.の顔を狙うが、寸での所でそれを交わしたV.V.は、宙へと逃げる。 「それに、僕はルルーシュの記憶を見た。彼に揺さぶりをかけるのは、簡単だよ」 「下種なやり方だな。なら、私もそのやり方に則らせてもらおうか」 言いながら、C.C.は宙へと飛び上がり、V.V.の足を掴むと、地上へ引き摺り下ろすように、その体を引いた。 「っ!」 「腕と足のリーチを考えろ、馬鹿が」 子供の姿をしたV.V.よりは、C.C.の方が上背がある。勿論、それに比例して足と腕が長い。その差に引きずられ、V.V.の体は地面へと落下する寸前だった。だが、地面すれすれで体勢を変え、背中から落ちることを回避する。 「…これ以上君に時間を割くのは面倒だ」 言いながら、V.V.は自分の指を噛み切り、流れ出た血を球状にすると、それをC.C.へ向けて投げた。 まずい、と回避したC.C.の目の前で、球状の血液が爆発する。小さな爆発ではあったが、C.C.の意識を数秒逸らすには、充分すぎる爆発だった。 「本気と言うことか、V.V.!」 姿を消したV.V.の気配を追って、C.C.は地面を蹴った。 ![]() 2008/5/4初出 |