*Merry Christmas*


 街中が、イルミネーションで飾り立てられれば飾り立てられるほどに、ルルーシュの不機嫌は積み重なる。
 環境保護を訴えながらも、娯楽のために切り倒された大木を街中まで運び、それに多量の電飾を飾りつける。運ぶためのガソリン代も、飾り付けるための電飾を作るために使われるエネルギーや労力も、飾り付けられ光り続ける電力も無駄。
 夜を夜として、何故月や星を見上げるだけで人は満足できないのだろう。闇を畏れて皓々と明かりを灯して夜を払拭し、我が物顔で歩き回る。
「忌々しい」
「………え〜と、ルルーシュ?どうしたの?」
 突然呟かれた、少し不穏とも取れる言葉に、スザクは繰っていた本から手を離した。
 ルルーシュの視線が、テレビ画面に注がれている。画面の中では、今話題のクリスマスイルミネーション、と題された特集が組まれ、各家や街中で繰り広げられる、イルミネーション合戦とも呼べる電力消費が取り上げられていた。
「この、イルミネーションだ。俺達が本来活動する時間帯を奪うに等しい」
「ああ。吸血鬼は、夜行性だもんね」
「それだけじゃない。見てみろ。これだけの灯を灯していて、何か環境にいいことがあるか?悪いことだらけだろうが。ここまで成長した大木を切り倒して娯楽に使い、電力を消費するための火力発電で発生する二酸化炭素の大量排出。それを理解せずにこれらのイルミネーションを綺麗だ何だと抜かして、この国はよく破綻しないな」
「いや、もう実際は結構な赤字で危険だと思うけど」
「他国の援助してる場合じゃないだろ。よほど暢気なんだな」
「暢気なのは、国民性かもね。実際に危険に直面しないと、人間なんてわからないものだから」
「ふん。二酸化炭素が増えればオゾン層が破壊されて、紫外線が増えるだろうが」
「ん?」
「俺たちにとっては、紫外線だって脅威なんだぞ。人間のせいで吸血鬼人口が減ったらどう責任を取るつもりだ?」
「………吸血鬼の場合、人口って言うのかな?」
「………そんなところ突っ込むな」
「ごめん」
 読み途中の頁に栞を挟み、本を閉じる。
「それより、ルルーシュはクリスマスとか、興味ないの?」
「ない」
「キリスト教徒じゃないの?」
「違う。だから、十字架向けられても何にもならない。吸血鬼に関する迷信の類は、大概が嘘だ」
「十字架も聖水も、大蒜も?」
「当たり前だ。キリスト教徒の吸血鬼に向ければ効果はあるかもしれないが、吸血鬼になったからって神への信仰を全員が捨てるとも限らない。聖水はただの水。霊的能力の高い者によって清められて、純粋な信仰心が浸透していれば、多少の効果はあるかもな。大蒜は人間にだって嫌いな奴がいるんだ。無意味だろ」
「そうなんだ。じゃあ、ルルーシュって、何教徒?」
「無宗教。宗教に興味はない」
「珍しいね。欧州の人とかって、厳しそうだけど?」
「土地によるだろうな。まあ、俺が生まれた場所もキリスト教徒が大半だったが、宗教って言うのは、庶民が心の拠り所にするためのものだろう?指導者の立場にある領主や貴族が宗教に溺れていたら、政治なんか出来ない」
「あぁ〜まあ、確かに。宗教者が政治やることほど、怖いことはないよね。うん」
「宗教って言うのは紙一重だ。それで本当に心が救われて心身ともに健やかに暮らせるならいい。だが、そうじゃない場合もある。そう言うお前はどうなんだ?」
「僕?僕も無宗教。元々日本は、なんちゃって仏教国だからね。何でもありだし。神道だって密教だって修験道だってありだし、昔は国が陰陽道を基盤に国造りしてたんだから」
「…それって、仏教国か?」
「さぁ?そう教わったよ、子供の頃は。だから、ごちゃ混ぜなんだよ。何でもあり」
「そう言う国も、他にないだろ」
「ないんじゃないかな、中々」
 テレビの画面が切り替わり、翌日の天気予報に変わる。丁度その時、居間の扉が開いた。
「タイミング悪い」
 手に、白い箱を持って入ってきたその姿を見て、スザクが呟く。勿論、ルルーシュの眉間にも皺が刻まれた。
「何がだい?」
 首に巻いていたマフラーを解きながら、手に持っていた箱をテーブルの上に置く。中を確認しなくとも、その形状から、何が入っているかは想像がつく。  今宵は、クリスマス。中身は、ケーキに相違ないだろう。
「クリスマスに対するブーイングをしていた所だったからな」
「それは、確かに、タイミングが悪かったかもしれないね。けれど、ケーキに罪はないから」
 コートを脱いでマフラーと一緒にソファの背にかけ、箱に付けられている赤いリボンを外し、蓋を持ち上げると、出てきたのは大きなホールのチョコレートケーキだ。苺とチョコレートで作られた“Merry Christmas”の文字が乗っている。
「何が好きか、分からなかったから、チョコレートにしてしまったけれど、食べられるかい?」
「嫌いではない」
 どちらかといえば素直ではないルルーシュが、嫌いではないといった場合、それは即ち、好きだ、と言うことになるのだと、最近のスザクもシュナイゼルも、理解し始めていた。
 確かに、街中に溢れるイルミネーションは嫌悪していたが、ケーキに罪はない。折角目の前にあるものを、ゴミ箱へ直行させるのも忍びなかった。
「この場合は、やはりシャンパンかな?」
 シュナイゼルの進言に、ルルーシュが頷く。スザクがすぐに立ち上がって、台所の方からケーキナイフと取り皿を、シュナイゼルがシャンパンとグラスを持ってきた。
「まあ、たまには、いいかもな」
 さっきまで寄っていた眉間の皺がなくなり、少し目元が柔らかくなっているのを見て、スザクはケーキにナイフを入れた。
 街中は、きっと鮮やかな色と光の洪水で、華やかなのだろう。けれど、ひっそりと静かな中で、蝋燭の明かりだけで過ごすと言うのもまた、乙なものかもしれない、と、少しだけ、ルルーシュのケーキだけ大きく切りながら、スザクは思った。







タイトルが安直ですみません。他に思いつきませんでした。
ルルーシュのイルミネーションに対する文句は、私の文句でもあります。目が痛くなるので好きではありません。
ルルの誕生日でショートケーキだったので、今度はチョコレートケーキにしました。
もうこれは勢いで書いたので、あまり振り返りません。




2007/12/25初出