その日、夕陽が西へ沈み、東の空から濃紺色へ、そして黒色へと変わり、細い月が上がった頃、ルルーシュは起き上がり、すぐさま着替えると、家を出た。 吸血鬼と言うのは、厄介だ。太陽の出ている時刻に、活動が出来ないのだから、日が沈み始めてから目を覚ます事も出来るには出来るが、しっかり日が沈みきってからの方が、動きやすい。 目的地は、普段決して足を運ばない場所。そして、その日は殊更混んでいるだろうと思われる場所だった。 嫌だとは思う。足など向けたくはない。だが。 足を向けなくてはいけない、理由があった。 貰ったものには礼をする。礼をしなければ、不義理、不人情になる。 目の前に聳える巨大なビルの前に立ち、一つ息を吸い込むと、ルルーシュは意を決したように、建物の中へ入った。 ソファの周りを、ぐるぐると回るスザクの様子を、苦笑混じりにシュナイゼルが見て、声をかける。 「座って待っても、構わないと思うのだけれど?」 「貴方は何で平気なんですか?心配でしょう?」 「心配だけれど、彼の身に危険が迫っているわけじゃないだろう?自分で出かけたのだから」 「そうですけど…ああ!もう!」 少し目を離すと、すぐにこれだと、スザクは腕を組み、止めていた足をまた動かしだす。 既にとっぷりと日が暮れた時刻ではあるが、ルルーシュにとっては朝と同じことなので、いつものようにおはようの挨拶をしに部屋を訪ねてみると、部屋は蛻の殻で、クローゼットにかかっていた外出用のコートがなくなっていた。 自ら出て行ったと言うことは、食事をしに出たか、何か買い物があったかくらいしか思いつかないのだが、何かを欲しいと言うようなことは、何も言っていなかった、と思う。 いっそ探しに行こうかとも思ったが、すれ違いになると淋しいので、こうして落ち着きなく、待っていると言うわけだった。 ぐるぐると、ソファの周りを何回回ったのか、回数などわからなくなった頃、玄関のドアの開く音がし、閉じる音がした。迎えに出ようとする前に、二人のいた部屋の扉が開く。 「おかえり、ルルーシュ。どこ行ってたの?」 入ってきたルルーシュに、スザクはにこりと微笑む。その笑顔に、ルルーシュは両腕を背中に隠した。 「ど、どこだっていいだろ!」 「お願いだから、出かける時は一言声をかけて。そうじゃないと、心配で心配で、落ち着かないんだよ」 「善処、する」 「そうしてもらえると嬉しいな。で、どこ行ってたの?食事?」 「………買い物だ」 「買い物?何買ってきたの?」 両腕が隠されたことを、勿論スザクが見逃すはずもない。覗き込むように首を伸ばすが、ルルーシュは見せまいと、部屋の中を移動する。 「とりあえず、お前、座れ」 言われて、スザクはソファに腰を下ろした。 「おかえり、ルルーシュ」 シュナイゼルが、読んでいた本から顔を上げ、本を閉じる。それに、ルルーシュはそっけなく、ああ、と答え、向かい合って座るスザクとシュナイゼルの間にある机の上に、二つの包みを置いた。 「何、これ?」 「私達に、かい?」 「別に…大したものじゃない。ただ………」 「ただ?」 スザクとシュナイゼルの疑問符が重なる。二つの視線に、ルルーシュは一歩後ろへ下がりながら、一つ咳払いをした。 「ただ、貰った、から………先月」 「先月?………………ああ!今日って、ホワイトデイだ!」 スザクの顔が、喜色に彩られる。 「ホワイトデイ?それは何だい?」 「ホワイトデイって言うのは、バレンタインデイにお菓子とかを貰った男性が、女性にお返しをする日です」 国によって、その行事が盛んか盛んでないかにかなりの差があるせいなのだろう、シュナイゼルはそんな行事は、知らなかった。 「じゃあこれは、先月のお返し、ということで、いいのかな?」 「貰っていいの?ルルーシュ?」 「っ…!」 嬉しそうなシュナイゼルと、それこそ目を輝かせて今にも飛びついてきかねないスザクの様子に、ルルーシュはさらに一歩、後ろへと下がった。 そんなルルーシュを見ながら、早速二人は包みを開ける。包装も中の箱も同じだが、入っているものは多少、違った。 共通するのは、クッキー。そして、ウイスキーのミニボトルが入っているが、そのボトルがそれぞれ違った。 「貰ったものには、きちんとお返しを、しないと、いけないだろ。幾らお前らが騎士だからって、ちゃんと返さないと………って、おい!」 「嬉しい!ありがとう、ルルーシュ!!」 箱を置いて、突然飛びついてきたスザクの体重を支えきれずに、ルルーシュはその場に座り込んだ。 「これは、嬉しいね。私も是非飛びつきたいが、君が潰れてしまうだろうね」 にこにこと覗き込んでくるシュナイゼルを見上げて、ルルーシュは顔を背けて、スザクの体を押した。 「いきなり飛びつくやつがあるか!」 「だって、嬉しかったんだよ。僕、君の騎士になれて、本当に幸せだ」 「ああ。それには私も同意するよ」 ルルーシュは、スザクとシュナイゼルの顔を見比べて、一つ溜息をついた。 こんな風に、二人が心の底から楽しそうに、嬉しそうにしているのを見るのは、もしかすると、初めてなのではないだろうか…今まで、自分は彼らを邪険に扱ってきたのではないだろうか、と。 そう思うと、自然溜息も出ると言うものだ。 「ルルーシュ?」 「どうかしたかい?」 「スザク、シュナイゼル」 腕を伸ばして、二人の頭を引き寄せる。そのまま、胸元へ抱き込むようにして、小さく呟いた。 「ありがとう」 少し…本当に少しだが、これからは優しくしてみようか…などと、ルルーシュは思っていた。 ![]() なんか、ラブラブ?な感じです。 この後、二人はルルーシュを押し倒します。 が、怒ったルルーシュにげんこつで頭を叩かれ、しばらく口をきいてもらえなくなります。(笑) スザクは心配性、シュナイゼルも心配してるけど、表には絶対出しません。 そんな感じな、ホワイトデイ小説。 先月アップしたバレンタイン小説と対なので、そちらも是非。(宣伝) 2008/3/14初出 |