晒されたスザクの喉元へと、ルルーシュの赤い唇から覗く、白く鋭い牙が剥かれて、喰らいつく。 「っ」 小さく呻いたスザクが眉根を寄せて、ルルーシュの頭を引き寄せた。 「美味しい?」 問いかけるスザクに、ルルーシュは答えずに、スザクの背中へ回した手に力をこめた。 「ルルーシュ」 「んっ………」 「そろ、そろ、痛いんだけど」 牙を立てたままのルルーシュの頭を撫でれば、ルルーシュの頭が浮き、牙が離れる。 「………はっ………美味しい」 「それは良かった。でも、吸いすぎ」 「いいと言ったのはお前だ」 血のついた口端を指で拭い、それを舌で舐め取る。そのまま、スザクの体へと凭れるように、肩を預ける。 「どうしたの?」 「眠いんだ」 「え?まだ朝じゃないよ?」 「んー」 「まさか、また休眠期?」 「どうだろうな………もう、お前と会ってから、百年以上経っている、か?」 思案するように視線を空中へ投げたスザクが、微笑む。 「そうだね。君が眠っていた間を差し引いても、それ位は。じゃあ、そろそろまた、かな?」 「また、眠るのか………」 「大丈夫だよ。毎年のナナリーの命日には、きちんとお花をあげるから、僕達で」 「ああ」 「他に、何か心配事?」 「いや………」 「ルルーシュ?」 「お前は、一人で、寂しくなかったのか?俺が眠っている間」 ルルーシュの言葉に、一瞬眼を丸くしたスザクは、苦笑する。 「そりゃ、寂しかったよ。早く目を覚まさないかな、って、一日に何度も君の側に足を運んだ。君の眠る棺桶を撫でたりとか」 「ああ、でも、今度は、一人じゃないから、いいな」 「でも、喧嘩しそう。どっちが先に君の起きた顔を見るかで」 「下らない」 「君は?眠っている間、寂しくなかった?」 「わからない。意識がないからな」 「そうなんだ」 眠そうなルルーシュの顔を見下ろして、スザクはその形の良い頭を撫でる。 「大丈夫だよ。淋しくないように、僕達が、ずっと一緒にいるからね。君の、騎士だからさ」 「ああ。シュナイゼルは?」 「お風呂の準備に行ってるよ。入りたいだろう?」 「ああ」 「君が選ぶ屋敷の基準だからね、広いお風呂がついていること、っていうのが」 「そういえば、まだ見てないな」 顔を上げたルルーシュが、凭れさせていた体を起す。 「広いみたいだよ、湯船」 「それはいいな」 立ち上がったルルーシュが、腕を伸ばして、視線を扉のない入口へと向けた。 「で、お前はいつまでそこに隠れているつもりだ、黎星刻。殺すタイミングでも、計っているのか?」 ルルーシュの鋭い視線が向けられたその瞬間、星刻は剣を抜こうとした。だが、その手が柄にかかり、抜き放つよりも先に、ルルーシュの姿が、目の前にあった。 「なっ………」 「遅い。これで一本だ」 ルルーシュの白い手が、星刻の首元へと伸ばされる。だが、その手は星刻へ触れることもなければ、害する事もなく引かれた。 「何の、つもりだ」 「ん?お前を殺しても俺に得はない。血は不味そうだしな」 「お前は、魔物だろう?」 「吸血鬼、だ。普通の魔物とは違う。無闇矢鱈に人間の命を奪う魔物と同じにするな。不愉快だ」 「魔物は魔物だ。たとえ、種類が何であれ、変わりはない!」 声高に叫ぶと同時に剣を引き抜き、その刃をルルーシュの心臓目掛けて、突き出す。しかし、その刃はルルーシュに届くより前に、スザクの手を貫いていた。 「スザクっ!」 「大丈夫。下がって」 「貴様も、魔物か。ならば…っ!?」 刃を引き、こびりついた血を振り払おうとしたその瞬間、赤く輝くルルーシュの瞳が、星刻を射抜いた。その深く濃い赤い色に息を呑んでいると、星刻の体が吹き飛んだ。 「殺さずにいてやるのに、何なんだ、お前は?」 また、見えなかったと、倒れた星刻を見下ろしている、ルルーシュの鋭い視線に、呼吸を失う。 「化物風情が、いい気になるなよ」 「え?ルルーシュ、それ、どういう意味?人間じゃないの?」 刃を受け止めるように掌を貫かれたスザクを振り返り、いまだ血の滴るその傷から、ルルーシュの視線が反れる。 「これは人間じゃない。だが、所謂魔物ともまた、種類の違うものだろう。何かは知らないが、不味そうだからな。だから、殺さずに様子を見ようと思ったんだが………ここで殺そうか?」 「っ………」 「隠そうとしている殺気を、まともに隠せもしない愚かな化物。お前に憑いているその子供も、可哀想にな」 「………え?」 そこへ、シュナイゼルが奥から姿を現し、首を傾げる。 「一体、どうしたんだい?」 「スザク、こいつを縛り上げて、もう一度部屋にでも入れておけ。俺は風呂に入る」 「殺さないの?」 「いつでも殺せる」 体を起した星刻を一睨みしたルルーシュは、そのままシュナイゼルの腕を掴むと、奥へと足を進めた。 ![]() 2008/10/23初出 |