話し声が聞こえて、ロロは屋敷の廊下の途中で足を止めた。この間、ルルーシュから紅茶を入れるのがうまくなったと、褒められたのだ。それが少し嬉しくて、自分で紅茶を入れてみようかと思い、台所へ向かっていたのだ。 聞こえてきたのは、スザクの声。 「ロロは、どうするの?」 「連れて行くわけにはいかないな」 「そう言うと思ったよ」 「ここに置いていくのかい?」 「そういうことになるな」 「拾ってきたのに、無責任じゃないかい?」 シュナイゼルの言葉に、ルルーシュが返す。 「生きてゆける術は教えた。学校にも通わせている。だから、選ばせる。ロロ自身に」 「選ばせるって………まさか………」 スザクの驚く声に、ルルーシュはそのまさかだよ、と答えた。 僕は捨てられる。そう思うと、怒りが湧いてきた。そして同時に、悲しい、と思った。 ロロは、どうして悲しいのかがわからなかった。家族でもないし、一片の血の繋がりもない他人に捨てられるのが、どうして悲しいのか。 勝手に連れてきて、食事を与えてくれて、色々なことを教えてくれた奇特な人間だ、と思えば、悲しいことなどあるはずもないのに。 どうして、涙が出るのだろう。 膝を抱えて部屋の隅で息を潜めていると、扉がノックされた。 「ロロ、入るぞ」 ルルーシュの声に、顔を上げる。と同時に、何故かもう、目の前にルルーシュがいた。 「ロロ、俺達は明日の夜、ここを出る」 「明日の夜?」 「ああ。もう、十年近くこの土地にいるから、そろそろ引っ越さなくてはいけない」 「何で?」 「お前だって、薄々気づいてはいたんじゃないか?」 「何、を?」 それを聞くのは、怖かった。聞いたら、もう二度と会えなくなるような気がして。 「俺達が、人間ではない、と言うことに」 「そんな、こと………」 「俺は、人間じゃない。だから、長く一つの場所にとどまることができない。十年は長すぎるんだ」 「ルルーシュは、何?」 「俺は、吸血鬼だ」 「吸血、鬼?そんなの、おとぎ話………」 「おとぎ話なんかじゃない。現に、今、俺はノックをしてからここまで、一瞬で移動してきただろう?」 言われて、そうだ、と思う。扉からロロのいる場所までは、数メートルある。ノックの音を聞き、ルルーシュの声を聞いた次の瞬間に、ロロの傍にいることは、不可能だ。それは、最初にここへ連れられてきた時にも感じたことだ。 背後にいたはずのルルーシュが、音もなくロロの行く先を、塞いでいた。まるで、瞬間移動でもしたかのように。 「ロロ、俺は、お前を捨てるために連れてきたわけじゃない」 「でも、捨てる、んでしょう」 「ここへ置いていくだけだ。今の学校を、卒業するまで」 「え?」 「学校へ通って、世間を見て、それでももし、俺達と一緒にいたいと、そうお前が思うのなら」 「思うなら?」 「お前を、迎えに来る」 「それは、僕を、吸血鬼にする、ってこと?」 ルルーシュは、曖昧に微笑んで、ロロの頭を軽く撫でる。 「何で、僕をここへ連れてきたの?」 「似てたんだ」 それは、ルルーシュが最初に言ったことだ。『似てるな』と、ロロを見て言ったのだ。誰に似ているのか、その時は追求しなかったけれども。 「誰に、似てるの?」 「昔話を、しようか」 ルルーシュが、苦笑するように微笑み、ロロの横へと腰を下ろした。 ロロが見上げるのは、月。 あの夜も、こんな風な月が出ていたな、と思う。 言われたとおり、ロロは学校に通った。通ったことのないそこでの生活は、苦痛を伴うものだった。集団生活などしたことがなかったし、協調性がないといわれることも、しばしばだった。 そして、やはり、夜が恋しくなった。自分が長年暮らしてきたあの、淀んだ夜の闇の中が。 ロロは、ずっと考えてきた。どうして、ルルーシュに置いていかれるとわかった途端、悲しくなったのか、を。答えが見つからなくて、色々な本を読んだ。本を読めば、そこに答えが書いてあると思ったからだ。 けれど、答えなんてどこにもなくて、結局、今もわからない。どうして、一人が寂しいとか、思うのだろう。ルルーシュ達に会うまでは、ずっと、一人だったのに。それが、当たり前だったのに。 ロロは、ルルーシュに会って、その答えを聞きたかった。沢山の本を読んだけれど、悲しく思った理由がわからない、と。きっと、ルルーシュなら、教えてくれる。彼は、色々な本を読んでいるし、知識も沢山、あるのだろうから。 空を見上げていたロロの横を、子供達が駆け抜けていく。夜も遅い時間だと言うのに、何で子供が出歩いているんだろう。しかも、何だかマントやシーツを被ったような、変な格好で。 「何だ。仮装していないのか?」 突然かけられた声に、勢いよく振り返ると、裏地の赤い黒色のマントを羽織ったルルーシュが、そこにいた。 「吸血鬼っぽいだろ?」 悪戯を仕掛けるような子供のような笑い方に、ロロは驚きと安堵の気持ちで、けれど疑問をぶつける。 「仮装って、何?」 「今日は、ハロウィンだぞ」 言われてみれば、あちらこちらに南瓜をくりぬいたランプが飾ってある。こういう日をハロウィンと呼ぶのだと、何かの本に書いてあった気がする。 「どうした、ロロ?何、泣いているんだ?」 「え?」 言われて、頬を涙が伝っていることに、気づく。 そして、ロロは知った。 寂しかったのは、悲しかったのは、ロロがルルーシュのことを、好きだからだ、と。 ![]() 2009年、ハロウィン小説です。 今回のテーマは、ロロを幸せにする!です。 って言うか、ロロとルルーシュを一緒にいさせる、ですね。 この後、勿論ロロはルルーシュについていくでしょうが、その後どうなるかは皆様の想像にお任せします。 悲しいとか、寂しいとか思うその理由を、ロロが自覚する部分を書きたかった。 本編ではロロはルルーシュを好きだと、自覚していたのかなぁ〜って。 守るとか、命をかけて、と言うような部分はよくわかったのですけれど、その根源をロロは実感して死んでいったのかな、って。 勿論、そうだと信じていますけれど。 今回の心残りは、ロロに魔女っ子コスをさせてあげられなかった、ってことです!(え?) 2009/10/31初出 |