*嘘と嘘*


 全て、嘘。
 優しい言葉も、心配する素振りも、柔らかい笑顔も、全てが嘘で塗り固められた虚構。
 でも、向けられる言葉と笑顔は、ニセモノなんかじゃない。
 優しい言葉も、柔らかい笑顔も、全て、きちんと、僕に向けられているんだ。
 僕の言葉と素振りと笑顔は全て嘘でも、あの人の向けてくれるものは、嘘なんかじゃない。僕だけのものだ。
 あれは、他の誰かへのものじゃない。彼の本当の妹へのものでも、彼が親友と認めていた男へのものでもない、僕への………
 例え、それが嘘の上に成り立っている本物でも、僕はそれを信じたいんだ。
 だって、“家族”だって、“弟”だって、言ってくれるから。
 “大切”な“家族”だ、って。
 僕が、一番欲しいもの。僕の、貰ったもの。


 携帯電話に繋がれた、可愛らしい、白いハート型のロケット。ストラップとして揺れるそれを握り、扉を開くと、中には一人しかいなかった。
「兄さん、一人?」
「ああ、ロロ」
「他の人達は?」
「シャーリーは水泳部、リヴァルはバイト、会長はさぼり。俺は一人で残って雑務」
「手伝おうか?」
「ああ。じゃあ、お茶を入れてくれないか?喉が渇いたんだ」
「いいよ。紅茶でいいかな?」
「頼む」
 かたかたと、キーボードを叩く音が響く。熱いお湯を茶葉の入ったポットに注ぎ、蓋をする。少し蒸らす時間を置いて、白いティーカップに注げば、香がふわりと広がる。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「少し、手を休めたら?」
「明日までに作らないといけないんだ。会長がもう少しやってくれればいいんだけどな」
「残して帰っちゃえばいいのに」
「無責任だろ、それは」
 一応、副会長だからな、といいながら、右手でキーボードを叩き、左手でカップを掴み、口元へ紅茶を運ぶ。
「ねえ、兄さん」
「ん?」
「あのさ、もし………もしも、僕が………」
 きぃ、と音を立てて、テラスへ続く窓が開く。振り返ると、学園の制服に身を包んだ、見慣れない男が立っていた。
「久しぶり、ルルーシュ」
「………………ス、ザク?」
 キーボードから手が離れ、座っていた椅子から腰が浮く。その間に、男は静かに室内へと足を踏み入れた。
「本当に、久しぶり。元気だった?」
「あ、ああ。お前こそ、何で………」
 立ち上がり、近づこうとしたルルーシュの腕を掴み、ロロはしがみついた。
「兄さん!」
「ロロ?どうしたんだ?」
 心配そうに見下ろしてくる瞳を見上げ、そのまま視線を目の前の男へ向ける。
「大丈夫だよ、ロロ。こいつは悪いやつじゃないから」
 いいや。悪いやつだ。悪いやつだと知っているのに、まだそんな風に、信じようと、信じているふりをしようと、振舞おうと言うのかと、腕を掴む手に力を込める。
「ロロ?悪い、スザク」
「ああ、いいよ。昔の君に似てるね」
「そうか?兄弟だからな」
 そうだ。僕と兄さんは兄弟だ。お前なんかが入り込む隙間も余地も、どこにもない。
 だから、さっさとどこかへ行ってしまえと、ロロは、枢木スザクを睨みつけた。


 お願いだから、誰かのものにならないで。
 お願いだから、僕から離れていかないで。
 お願いだから、全てを忘れていて欲しい。
 お願いだから、嘘を嘘のまま壊さないで。
 そうすれば…
 そうすれば、僕らはずっと一緒にいられる。
 僕と兄さんは、家族でいられる。兄弟でいられる。
 兄さんは、“ゼロ”なんかじゃない。
 兄さんは、僕の兄さんなんだから。
 だから、誰にも渡さない。
 絶対に。








初・R2です。しかもロロ→ルル。
最初は18禁にするつもりだったんですけどねぇ〜最初からとばすのはどうかと思って。
ので、控えめな感じに。
どうも、スザクが学園に現れるようなことを雑誌で読んだので、こんな感じに。
ロロはきっと“家族”とか“兄弟”と言う言葉に執着がありそうな気がしたので。
この後はきっと、ロロがスザクに敵対心と嫉妬でルルに手を出すと思います。
最初はそこまで書く気だったのですが。ロロで18禁って………まだ分からないので。
もう少しキャラ確定したら書こうかな、なんて思います。




2008/4/21初出