剥き出しの鉄骨の上に横たわる細い体。 「兄さん」 声をかけても、目を閉じて眠っていて、反応はない。こんな場所で寝たら風邪を引くのに…と思って近づくと、横になった体に乗せていた右腕が落ち、地面へとつく。その手から零れたものを見て、眼を見張る。 「っ…まさかっ!?」 左腕の長袖を捲くれば、そこには、小さく針で刺したような赤い痕がある。 注射針の痕。それは、“リフレイン”と呼ばれる麻薬を打った痕だった。 紋白蝶、淡く色づく赤い花、生い茂る木々の緑、穏やかに微笑む母の笑顔と、無邪気に走り回る妹の笑顔。 優しい光に溢れ、涼やかな風が頬を撫でていく。 静かな時の中で、芳しい紅茶の香りと甘いお菓子の匂いが漂ってきて、一番に妹がそちらへと走る。 午後の、お茶の時間。家族三人が、心穏やかに過ごせる時間。 口をつければ、染み入るように温かい紅茶に、涙が出そうだった。けれど、何故涙が出るのかは、分からなかった。 眦に溜まる涙が頬を滑る。そっと手を伸ばして、指先でその涙を掬い、舐めとった。 「…甘い」 口元は微笑んでいるのに、瞳が涙を流している。一体、どんな幸福で残酷な夢を見ているのだろう。 “リフレイン”…幸せだった過去へと戻る事のできる麻薬。一年以上前、イレブン=日本人相手に、ブリタニアの人間が売っていた麻薬だ。まさか、今更そんなものが出回っていようとは…ブリタニア政庁の監視体制も存外弱いらしい。 瞼が震え、持ち上がる。現れた紫色の瞳はどこか、空を見つめているようだった。 「兄さん」 声をかければ、空を彷徨い焦点のようやくあった視線が、不思議そうな色を宿す。 「ロ、ロ?どう、したんだ?」 「それは、こっちの台詞だよ、兄さん。何で、こんなことしたの?」 「こんなこと?」 心底分かっていないような風情で首を傾げられても、ロロが追求をやめるわけがない。 麻薬を使い、辛い現実から逃げよう、なんて。 「何で、あんなのに頼るの?そんなに、今が嫌?そんなに、昔が好きなの?忘れたいの、今を?」 一回きりならば、後遺症が起こったりもしないだろう。だが、人間は弱い生き物だ。一度手を出した甘い夢に、二度目も引きずられないなどと言う保障はない。 視線を逸らし、そのまま布団を頭まで被るように背を丸める姿に、苛立ったロロは、ベッドの上へと足を乗せた。 「嫌だよ、僕は」 「ロロ?」 「嫌だ。兄さんが…貴方が、僕の側からいなくなるなんて、絶対に嫌だ。あんな麻薬に貴方を取られるなんて、そんなの許せない」 誰かにとられるのは勿論嫌だが、あんな麻薬の与えてくれる夢の中へ逃げ込み、兄の視線が自分を見なくなってしまうことは、それ以上に嫌だった。 「他の誰でもない、僕が貴方の側に居る。絶対に、僕は貴方の側を離れない。だから、今を忘れたいなら、甘い夢に浸りたいなら、僕に頼ってよ」 自分よりの幾分か広い背中から腕を回し、細い体を抱きしめる。幾ら細い体と言っても、兄の体だ。充分、ロロよりは大きい。それでも、ぎゅっと、腕に力を込めた。 「大好き、兄さん」 耳元で囁いて、白い頬に唇を寄せた。 想像していた以上に柔らかく、細く、白い体。抗う気力と体力がないのか、されるがままになっている体を組み敷き、ロロは囁き続けた。 忘れていい、と。今は、全て忘れて、と。全てを忘れて、熱に押し流されてしまえばいい、と。 「兄、さん…」 喘ぐ唇が艶かしく、時折覗く赤い下が艶やかだった。 黒い髪がシーツの上で乱れて、柔らかく揺れる。 麻薬の作用がいまだ働いているのか、蕩けたような紫色の瞳は相変わらず空を眺め、白い指先が救いを求めるようにロロへと伸びる。 「兄さん」 「ふあっ…あっ!」 繋がった場所を突き上げれば、濡れた音と共に下肢が揺れ、足の先がたまらなそうにシーツの波を掻き乱す。 熱く、柔らかく、包み込まれて蕩けそうな兄の体の中で、ロロは思った。 いっそのこと、このまま溶け合えてしまえば、誰も邪魔を出来ないのに、と。誰も、引き裂きになど来ないだろうに、と。 「兄さん…気持ち、いい?」 焦点の合っていない瞳が閉じられ、首が縦に振られる。 「言って、兄さん。言葉にして。お願い」 汗で頬に張りついた黒い髪を退かし、啄ばむように、幾度か唇を吸う。 甘く、柔らかい唇だった。 「んっ…ロ、ロ…んあっ」 「兄さん、大好き。大好き」 放埓に動く細い腰がすり寄せられる。限界が近いと言うことなのか、足が上がり、ロロの腰を引き寄せた。 「だめ、だよ、兄さん…そんな…僕、イッちゃう」 離さないとでも言うように足が絡められ、腕が伸びてロロを引き寄せる。 「あ、だめ…兄さんっ!」 「あっ…はっ…あぁあああっ!」 搾り取られるように自身をしめつけられて、間に合わずに兄の体の中へ欲望を吐き出してしまう。熱く濡らして広がるそれに追い上げられた兄の楔もまた、ロロと自分の腹へと白濁を吐き出した。 汗と白濁と涙に塗れた兄の体を見下ろしていると、ロロの体の奥でもう一度火種が燻る。 「兄さん………ううん。ルルーシュ、大好き。僕と一緒に、全部忘れて…甘い夢を、見ようよ」 言葉と共に幾度か口づけを落とせば、白い腕が伸びて、ロロの肩を抱き寄せた。 理性を失い蕩けた瞳と唇が、ロロを甘い闇へと引きずり込む。 もっと、もっとと、際限のない欲望と夢にまみれて、絡まりあった。 ![]() とうとうやってしまいました。ロロルルのえにょ。 すいません。もしも本当にリフレインを打っていたらどうなっただろう?と妄想してしまいまして。 ルルは多分、まだリフレインで頭飛んでます。 そこにつけこんでロロが襲う、と言う。 なんか、無性に謝りたいです。本当にすいません。何でだろう?ロロだからかな? 2008/5/21初出 |