扉を開くと、まるでその部屋があたかも自分の部屋であるかのように寛いでいる青年が、一人。一体どこから入ったのかと問い詰めるのも無駄だと知っているため、一つ聞こえよがしに溜息をつき、後ろ手に扉を閉める。そのままその手で、わざと音を立てるようにして、鍵をかけた。 「俺を、ここから出さないつもりか?」 「いいや。外部から人を入れないためだ」 知られては、互いに面倒なことになると、知っているからだ。 「まさか、君があのように“心”を説くとは思わなかったよ」 嘲りを含んでそう言えば、白い面が苦笑する。 「女は怖い。敵に回すと、な」 皇神楽耶、千葉、ラクシャータ、それにC.C.と言う面々にあの場で睨まれては、流石の“ゼロ”も“心”を説かないわけにはいかなかった。特に、人情と言うものを深く解する日本人の前では。 「そうだな」 「天子様は?」 「今は落ち着かれている。無理もない。初めて見た外が、戦場ではな。だが、大宦官達を粛清できたこと、そして民心が一つになったことは、君に感謝しなければいけないな、ゼロ」 仮面を外した姿。着ているのは、黒い学生服。一見してブリタニア人の学生にしか見えないその正体を、彼は知っている。 「この格好の時にそれはよしてくれないか?どこで誰が聞いているとも知れない」 「ああ、そうだったな、ルルーシュ」 組んでいた足を解き、頭を支えていた腕を外して立ち上がる。机を回り込んで、顔を上げる。 「ブリタニアの連中は?」 「引き上げたよ。我が国との同盟は破棄された。それも、大宦官の民心を無視した勝手な判断だったと、断定されてな」 「くくっ…あの放送が効いただろう?まさか、あそこまで“膿”を露呈してくれるとは、思わなかったがな」 「流石の宰相も、あの言葉を無視はできなかったらしい。まさか、中華連邦そのものを焦土と化し、国民全てを根絶やしにするわけにもいかないだろうからな」 「ふん。懸命な判断だな、相変わらず」 忌々しそうに呟いて、ルルーシュは窓の外へ視線をやる。 「俺は日本へ戻る」 「何?」 「いつまでも、影武者を使っておくわけにもいかない。お前との付き合いも、ここまでだな」 「我々は“黒の騎士団”と“ゼロ”に救われた。勿論、天子様も」 「大事にしろよ、天子を」 「言われずとも」 「いっそ、お前が結婚すれば丸くおさまるんじゃないか?」 「なっ…!」 「中華連邦は、これからだ。ブリタニアからの脅威が去ったわけじゃない。あの幼い天子では、国を守りきれないだろう?お前ほどの知略と政治力があれば、舵取りもうまく行くだろうさ」 「私は、表舞台に立つ気は、ない」 「ほう。何故?」 窓の外へ向けられていた視線が、興味深そうに振り返る。 「“神虎”は、人の命を奪うナイトメアフレームだ。私の命は、そう長くない。この命ある限り、天子様に仕える覚悟はある。だが、政治に関わることとはまた、別だ」 腰にある剣へと手を添える姿を見て、ルルーシュは肩を竦める。 「………難儀な男だな、黎星刻」 「何とでも」 それに、と続けた星刻の視線がルルーシュを捉え、近づいて腕を掴む。そのまま薄い肩を抱き寄せて、窓との間に閉じ込めるようにして、唇を重ねる。 「っ!………めろっ!」 懇親の力で星刻を突き飛ばしたルルーシュが、大きく肩で息をする。 「俺は、こんなことをしにここへ来たわけじゃないっ!」 「なら、何をしに?私が君を好いていると、知っているだろう?それなのに、君は随分と、残酷だ」 腕を掴んで、逃げられないようにと、抱き込む。 「離せっ、星刻!」 「天子様へ捧げるのは忠誠だ。忠義だ。それは、愛じゃない」 「俺には関係ない!」 腕を突っぱね、星刻を引き離したルルーシュが背中を向ける。 「ルルーシュ」 「呼ぶなっ!」 耳を塞ぐルルーシュの腕を掴む。だが、嫌がるように眼まで閉じたルルーシュに、星刻は眉根を寄せた。 「君は、何を怖がっている?」 「怖がる?」 「そうだ。まるで、感情を向けられることを恐れているように見える。それを、受け入れる事を」 「恐れてなど、いない」 「なら、答えを出してくれ。私を嫌いなのか、それとも………」 眼を閉じたまま顔を背けていたルルーシュが、恐る恐る瞼を押し開き、星刻を見上げる。そして、すぐに視線を逸らした。 「ルルーシュ」 「呼ぶな」 「ルルーシュ、私は、君を…」 ルルーシュの腕が伸び、星刻の口を塞ぐ。 「それ以上、言葉にするな。俺とお前は、国を憂えて立ち上がった者同士。それ以上でも、以下でもない。手を結んだのは、互いの利益のためだ。それで、終わりだ」 ルルーシュの腕が離れ、下ろされる。だが、その腕を掴んだ星刻は、細い体を、側にあった机の上へと押し倒した。 「星………んぅっ!」 腕を押さえ、口づける。深く、呼吸を奪うように唇を重ね、そっと、髪を梳く。 「終わりだと言うのなら、何故、そんな泣きそうな顔を、君はする?」 「誰が………っ!」 眦から、一筋の涙が零れる。紫水晶のような瞳から零れるそれは、まるで月長石のようだった。 「何で、お前は………」 「何故、だろうな。君に、惹かれてやまない」 “ゼロ”と言う記号ではなく、ルルーシュと言う名を持つこの青年の、心に惹かれてやまない。彼が彼であるからこそ、星刻は心惹かれたのだ。 涙を指先で拭い、啄ばむように二度、三度と口づける。 いっそ、その心も体も、全てを手に入れられればよいのにと、願わずにはいられなかった。 それが、決して叶わない願いだと、知っていたからこそ……… ![]() 11話を見て突発的に書きたくなりました! 星刻×ルルーシュ(♂)。女体化じゃないですよー。 天子に捧げるのは忠誠と忠義、愛はルルに捧げればいいよ!と。 キスから先に進まない感じの二人もいいと思います。 でも、基本星刻は情熱的な男なので、ルルを滅茶苦茶大事にしてくれると疑いません。 本当にもう………星刻×ルルが好きすぎるっ!! 2008/6/23初出 |