*神聖な恋*


 憧憬、羨慕、尊敬。
 この想いは、愛なのだろうか。それとも………


 触りたい、と思う。その、薄い肩や背に、細い腕や腰に、艶やかな黒髪や水晶のように美しい紫の瞳に。
 知りたい、と思う。その、心の奥底に秘められている願い、隠されている想い、淀みない鏡のような心を。
 振り返って欲しい。こちらを見て、笑いかけて欲しい。
 いつも、いつも、自分をすり抜けていくその視線。まるで、わざと外してでもいるかのように。見ようと、していないかのように。
 貴方に、何かしましたか?
 貴方の気に障るような、何か、を。
 怒りならば、憤りならば、教えてください。改めますから。
 教えてください。
 貴方の瞳は、いつも、どこを見ているのですか?


 静まり返った室内。誰もいないのかと、扉を開いたその部屋の中で、一人、腕を枕に眠っている人物。
 ルルーシュ・ランペルージ。アッシュフォード学園生徒会副会長であり、この生徒会室にいて何ら疑問ではない人物。けれど、その姿は、自分の知る彼の方とそっくりなのだと、ジノ・ヴァインベルグは音を立てないように扉を閉めた。
 靴底が音を立てないようにと、細心の注意を払って足を運び、気配を断つ。起こしてしまうのは、可哀想だった。
 窓から差し込む日の光に艶めく黒髪、規則正しい呼吸を繰り返す、少し開いた唇。
 触れたい、と思う。けれど、触れてはいけない、不可侵の存在なのだ、とも思う。
 貴方に、会いたかったんです。ずっと、ずっと………そう告げられたら、どんなにいいだろうか。信じていなかったのだと。貴方が死んだなどと、信じた日は一日としてなかったのだと、その御前に跪きたい。
 そう思う気持ちを堪え、すぐ側まで近づいて、見下ろす。
 眉間に寄った皺。眠りに落ちてまで、何を憂えているのだろうか。
 腕を伸ばして、引く。拳を握り締め、声には出さずに、呟く。
 ルルーシュ殿下、と。
 眼を開けて、私を見てください、と祈るような気持ちで、思う。貴方の視線はいつも遠くて、手を伸ばしても、声をかけても、自分を素通りしていってしまうから、とても悲しくて、どうしたらいいのかわからないんです。そう、全て吐露してしまえれば、どれだけ楽になるだろうか。
 けれど、そんな弱い自分を、知られたくないとも思う。この、気高い人にだけ、は。
 だって、貴方は………
 貴方は、私にとって、尊く、侵しがたい、ただ一人の、心の主なのだから。
 誰の気配もないことを確認して、眠るその人の足元で、膝を折る。そして、ジノは静かに、頭を垂れた。








四日間連続更新第一弾。
最初はジノルルです。と言うより、ジノ→ルル。
四作品ともそう言う形にしようと思っています。○○→ルル、の形で。
タイトルは、6/27の誕生花である“トケイソウ”の花言葉。
大分昔に発行された本に載っていたものなので、今は少し違うかもしれませんが、四日間分の花言葉が全てよい感じだったので。
転寝ルルは可愛いと思います。ジノが近づいても気づかない(笑)




2008/6/27初出