*いつも幸せ*


 離れていると、淋しくて。
 傍らにいると、苦しくて。
 触れていると、嬉しくて。
 大好き、大好き、大好き。
 たった一人、僕の兄さん。


 水面に広がる波紋。そして、湧き上がる泡。そこから現れた漆黒のナイトメアに、心の中に喜びが広がる。
 ああ、早く、そのハッチを開いて、姿を見せて欲しい。いつもどおりの、元気な姿を。
 少し身を乗り出せば、浮力を借りて水面に体の上半身を出したナイトメアのハッチが開き、黒い髪が覗く。その下から現れた白い顔、紫色の瞳に、手を伸ばしたかった。
「お帰りなさい、兄さん」
 顔が上げられ、にこり、と微笑む。
 ああ、その笑顔を見るだけで、心の中があったかい。
「ただいま、ロロ」
 ほら。兄さんが、“ただいま”って言ってくれる。兄さんが帰ってくるのは、いつだって僕の所。他の誰かでも、兄さんの手を振り払ったあんな妹でもなく、僕の所。
 ナイトメアから下りてきた兄さんはいつもどおりの制服姿。ああ、これが、日常、っていうやつなのかな?
「ねえ、兄さん」
「ん?」
 腕を伸ばして、触れようとする。けれど、勇気がなくて、触れられない。
 もしも、腕を、振り払われたら。
 もしも、拒絶されてしまったら。
 僕は、どうしたらいいのだろう。
「どうした、ロロ?」
 白い手が、僕の頭に乗せられ、撫でてくれる。
 ああ。兄さんの、手。温かくて、優しい手。僕にとって、たった一人の、家族。僕に“未来をくれる”といってくれた、優しい人。
「えへへ」
「本当に、どうしたんだ?」
「何でもないよ。兄さんが元気で、嬉しいんだ」
「そうか」
 そう。僕は、嬉しいんだ。兄さんがこうして側にいて、とても幸せなんだ。
 だから………
 だから、気づいちゃいけない。“幸せ”なんだから。
 見ちゃ、いけない。心の奥深くにある、その箱を、開けてはいけない。
 だって………だって、そこには………
 ―貴方を独占したいと言う、真っ黒な欲望。








四日間連続更新第四弾、ラストを飾るのはロロ→ルルです。
タイトルは6/30の誕生花、“ルピナス(白)”の花言葉。
ロロの心の底にあるパンドラの箱に残る最後の言葉は“欲望”だよね、きっと!!と言う感じで。
いつも幸せ。けど時折自分の中でちらつく影から眼を背けてるロロ。
いや〜いつになったらそれを爆発させてくれるのかと、今から楽しみです(笑)




2008/6/30初出