物心ついた頃。この手はもう、夥しいほどの赤黒い血に濡れていた。 何故、どうして、何の為に………そんな問いは、僕の中にはなかった。 それが“当たり前”だったから。それ以外には“何もなかった”から。それだけが僕の“存在意義”だったから。 僕はただの実験体。失敗作。必要のない、存在。誰からも必要とされない、使い捨ての玩具。 兄さん、兄さん、兄さん、兄さん、兄さん………何度も、何度もその言葉を、音にして呟く。その言葉が、贋物にならないように。本物の“弟”がそこに、いるように。 何度も、何度も、その言葉を練習した。それなのに、今、その言葉を口に乗せると、痛みが心を襲う。甘く、痺れるような、痛みが。 これは、何だろう。僕は、こんな痛みを知らない。こんな、甘さも。 だって、僕に“家族”はいなかった。いたのは同じ“実験体”と“失敗作”である存在だけで、それは上位でも下位でもなく、ただそこに在っただけだ。僕には、何の関係も無かった。 “兄さん”は僕に“未来”をくれると言った。僕は、“未来”の意味がわからなかった。だって、誰も教えてはくれなかったし、知る必要もない事柄だったから。 “過去”のない僕に、兄さんは“未来”を、“これから先、将来”をくれるといった。その言葉は、とても怖くて、けれどとても綺麗で温かく聞こえた。 僕に“家族”を、“誕生日”をくれた僕の兄さん。なら、きっと僕に“未来”をくれるんだ。 だって、兄さんは嘘をついたことがないもの。いつだって、兄さんは僕に優しく微笑んでくれるもの。 だから、僕は兄さんを信じる。兄さんだけが、僕を“大切”にしてくれるから。 “失敗作”でも“実験体”でもない、“家族”として扱ってくれるから。 僕、何でもするよ、兄さん。 堕ちていく………黄土色の、細かい砂の上に。 どんなに腕を伸ばしても、はるか上空で見下ろしている兄さんには、届かない。 叩きつけられる。 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。 役に立てなくて、ごめんなさい。兄さんの戦略を乱して、ごめんなさい。兄さんを、勝たせてあげたかったのに。 だって、兄さんの勝利は僕の勝利でもある。兄さんが勝てば、僕には“未来”が待ってるはずだったから。僕が兄さんの役に立って、勝利すれば。 お願い。僕を、捨てていかないで。 お願い。僕の、所に、下りてきて。 お願い。僕の、この手を掴んでよ。 だって。怖くて、怖くて仕方ない。 ボクハ。アナタノ、オトウトダヨ。 ずっと。側に、いてくれるでしょ? だって。僕は、貴方の、弟だから。 「僕には、それしかないんだ、兄さん!」 貴方を繋ぎ止められる“何か”なんて、僕にはそれしかない。貴方の“弟”だと言う、たった、その一文字しか。 それすら、贋物だってわかってる。わかっていても、僕にはそれに縋る他の方法がない。“過去”も“存在意義”もない僕には、贋物の言葉に縋るしかないから。 「僕は、誰………」 僕は、誰なんだろう。僕は、何者なんだろう。僕は、どうしてこんな場所にいるんだろう。 何故、どうして、何の為に………そんな問いばかりが、僕の中で膨らんでいく。 『お前は、俺の弟だろ?』 ああ、そうだ。ロロ・ランペルージ。それだけが、僕の真実(ほんとう)。 そして、僕にとっての真実(ほんとう)は、貴方だけ。 ルルーシュ、兄さん。 僕の心臓が止まる、その瞬間は、貴方の腕の中に、いたいな。 そんな願いを持っても、いいでしょう? 僕の“未来”は、それがいいなぁ。 ![]() こういうの、ヤンデレって言うんでしょうか?(聞くな) どの辺りまでいくとヤンデレと言っていいのか、その辺りの境界線がどうにもわからなくて、ですね。 ロロ→ルルです。ヴィンセントがぼろぼろになってしまった14話を。 何か、某種運命の達磨にされた赤い機体みたいだったと。(某の意味がない) ロロの必死さが痛かったので、文字にしたくなって書きました。衝動です。 2008/7/15初出 |