*嘘と真*


 自分につき続けた嘘は、いつか真実(ほんとう)になり、苦しむことも、悲しむことも、痛むことも、なくなるのだろうか。


 嘘。全てが、嘘。
 弟だといってくれた言葉も、家族だと、未来をくれるといった言葉も、全てが、嘘。
 痛む心を引き絞るように、胸に手をあて、眼を閉じる。
「それでも、兄さん………」
 暗殺者として育てられ、人を殺すだけが仕事で、食事を取る事も、眠ることも、毎日の全てが人を殺すためだけに繰り返される日常で。
 学校へ通ったり、食事を作ったり、勉強をしたり、ベッドメイクをしたり………
「初めてだったんだ!」
 “人を殺さない毎日”が。
 いつかは殺さなくてはいけない相手。いつかはこの手にかけなければいけない相手。でも、それでも………
「あの時間は、嘘じゃなかった。本物だったんだ!」
 “兄さん”と呼ぶのは僕だけ。だって、あの子は“お兄様”と呼んでいたから。だから、“兄さん”にとっての弟は、僕だけで………
「僕は、兄さんの、家族だ」
 たった一人の、家族。血の繋がりなんかなくても、例えたった一年間だけだったとしても、僕にとってそれが本物だったなら、“真実”になる。
 携帯電話につけられたチャームを握り締めて、立ち上がる。肌を粟立たせる感覚が、咄嗟に柱に身を隠させた。
「ゼロが?」
「裏切った」
「嘘をついていたらしい」
「くそっ!俺達を利用して!」
 ………そうだよ。僕の兄さんは嘘つきなんだ。君達はただ利用されていただけ。
 でも、真実はそれだけじゃない。気づこうとしないなら、ずっとそう思っていればいい。
「僕は、兄さんを………そうだよ。どんなに騙されたって、嘘つきだって、兄さんは、兄さんだもの、僕の」
 待っていて、兄さん。
 貴方を絶対、死なせたりしない。
 たった一人の、僕の家族。


 死にたいなんて、言わないで。
 もういい、だなんて言わないでよ。
 僕の兄さんなんだから、そんな弱気なこと言わないで。
 大丈夫。僕だけは、ずっと、兄さんの側に居る。ずっと、兄さんの味方だから。
 だから、お願い、兄さん………
 生きて。
 僕との約束………未来をくれるって、言ってくれたよね。
 ありがとう、兄さん。
 僕に初めて、家族をくれた人。
 僕の未来、もう、貰ったよ。
 兄さんが、僕の、未来だもの。
 大好きだよ、兄さん。
 嘘つきで、本当のことを絶対に言わない、兄さんが、大好き。
 わかってるよ。
 だって、僕は、兄さんの弟だもの。
 ロロ・ランペルージだもの。








突発、ロロ追悼小説です。
書きながら本編思い出してしまって、涙が………
ロロは、ロロ・ランペルージとして死ねたと思います。暗殺者でもなく。ルルーシュの弟として。
冒頭の一説は、別の話に使う予定だったのですが…
ロロは、苦しむ事も悲しくことも痛むこともなく、嘘を真実にして死んでいけたのだと。
ロロは本当にルルーシュの家族でした。ナナリーと三人で並んだ所、見たかったです………(号泣)




2008/8/17初出