キュウシュウの前線を指揮していた黎星刻から、イカルガへと連絡が入ったのは、“ゼロ”が蜃気楼とともに姿を消してから、一時間と経たない、騎士団内が最も混乱にある頃だった。 逃げた“ゼロ”を追撃するか否かで意見の割れた内部を纏めるべく、藤堂、扇、ディートハルトらのいた会議室へと通信が入り、扇が現状を説明しようとする前に、“ゼロ”はどこにいるのかと言う問いが、星刻からされた。 彼はいないと、忌々しそうに扇が呟いたのを聞いた星刻が、不審そうに眉根を寄せる。 『このような時にどこへ?』 「彼は、我々を裏切った」 藤堂の言葉に、星刻の眉間の皺が深くなる。そして、その口から耳を疑うような言葉が飛び出した。 『君達が裏切ったのではなく?』 「裏切ったのは彼だ!」 扇の叫びに、ディートハルトがこうなった経緯を説明する。話を聞き終わった星刻の視線が動き、画面の向こう側から溜息が零れる。 『てっきり、“黒の騎士団”は“ゼロ”あっての組織だと思ったがな。作ったのも“ゼロ”ならば、ここまで導いてきたのも“ゼロ”。違うか?』 「彼は、我々を騙し、利用していた。ついていくことは出来ない」 『利用していたのは君達もではないのか?“日本”を取り戻すために』 「随分と“ゼロ”を庇い立てますね、黎総司令は」 ディートハルトの言葉に、星刻が、口端に笑みを浮かべる。 『知っているからな』 「何を、知っているのですか?」 『恐らくは、君達の知らないことを。まあ、いい。“ゼロ”がいないのであれば、この通信は無用だな』 待て、と扇が言葉をかける前に、割り込んできた通信があった。画面が二分割され、半分に左半面を仮面で覆った、ジェレミア・ゴッドバルトの顔が出る。 『“ゼロ”はどちらに?』 「彼はいない」 『………そうですか。おや、黎星刻、でしたか』 『オレンジ君か』 『懐かしい名ですね。だが、それも忠義の証。現状はどう?』 『“ゼロ”はいないらしい。様子を見るに、彼はここを離れたと言うことだろう』 『何と、嘆かわしい………では、すぐに追いかけなくては。あの方の古い友人にも連絡を取り…』 ジェレミアの言葉を遮るように、音声だけの通信が割り込む。 『その必要はないぞ、ジェレミア卿!私ならもう来ている!』 『おお、ヴァインベルグ卿。来てくださいましたか』 『で?私の大切な主はどこだ?』 『既にこちらにはいないようです』 『なぁんだ。折角トリスタン無断発進させたのになー』 ジェレミアの顔が、藤堂らを見る。 『ロロは?』 「………恐らくは、彼が蜃気楼を操り、“ゼロ”を」 『ならば、蜃気楼の進行方向を割り出そう』 「追撃に手を貸してくれるのか?」 扇の言葉に、三人が同時に、まさか、と声をあげる。 『彼を助けに行く』 『恐らくは、今頃お独りのはず』 『私が行かないで誰があの方を支えられる、って言うのさ!』 『おや。今まで散々あの方の手を煩わせてきた方の言葉とは思えないですね』 『知らなかったんだ!仕方ないだろ!』 『後は…C.C.か。ジェレミア卿、彼女を頼めるか?』 『状況は知っていますので、彼女も何とか連れて行けるようにしましょう』 『私はこちらから“神虎”で向かう。合流地点は後ほど。それと、この後の通信は彼の用意した専用回線で』 『じゃあな、“黒の騎士団”の皆さん!』 一際明るい声が途絶える。 『私もこれで失礼しましょう。後ほどC.C.を迎えに上がりますので』 ジェレミアも画面から消え、星刻が憤りにも似た色を湛えた瞳を、藤堂らへと向ける。 『ブリタニア軍の話を真に受けて“ゼロ”を追い出すとは。まあ、どうせ彼は弁明も何もしなかったのだろうが』 「どういうことですか?ブリタニアの話が嘘だとでも?」 ディートハルトの言葉に、星刻は控えていた香凛に“神虎”の発進準備を命じ、顔を向き直る。 『嘘だとはいわないさ。だが、全ての事実ではないだろうな。シュナイゼル・エル・ブリタニアは、天子様をブリタニアへ売るべく大宦官と謀った男。私はそんな男の言葉は信用できない』 「それだけじゃないと、証拠もあると説明しただろう!?」 『だから、何だと?彼の口から直接聞いたのではないのだろう?それだけで、事実は歪められる』 「君は、何を知っている?」 藤堂の言葉に、剣を腰に佩いた星刻は、くすり、と微笑んだ。 『ならば、一つだけ。ギアス能力者は、彼だけではないと言うこと。彼の側にいたロロ、ジェレミア卿もその一人』 「なっ…彼らも命令できると言うのか!?」 扇の声に、星刻は不快そうに眉尻を上げる。 『は?何を宰相から聞いたのかは知らないが、能力は個々に違うと聞いた。ジェレミア卿は“ギアスキャンセラー”だと』 「キャンセラー…と言うことは、無効にすると言うことですね?」 『そうだ。だが、これでわかった。君達が宰相の話を鵜呑みにして、彼の話には耳を傾けなかったのだと。これ以上は無駄だな。失礼する』 通信が途切れ、星刻の顔が画面から消える。残された三人は呆然と、互いの顔を見合わせた。 その頃、愛機トリスタンの中で、ジノは鼻歌を歌いながら操縦桿を握っていた。 「待っててくださいね、ルルーシュ様!私が今すぐお側に行きますから!」 そして、同じ頃、ジェレミアも… 「待っていてください、ルルーシュ殿下。必ずお側に参ります!」 そして、“神虎”を発進させた星刻は、一人溜息をついていた。 「君は、一体何人篭絡しているんだ、ルルーシュ」 否、私も篭絡された一人か…と、苦笑しつつ、眼前に広がる海原へと眼を向ける。 一人で泣いているであろう、彼の元へと! ![]() タイトルを“トライアングラー”にしようと思って自重しました。 無理矢理明るい話書かないとやってられない!! 一人になったルルを誰か助けて!側にいてあげて! ロロの死の衝撃がまだ和らぎません。 なので、無理矢理にテンションあげるべく無理矢理に明るい話(滅茶苦茶とも言う)を書いてみました。 でも、何か、まだ和らぎません。何でだろう……… 2008/8/18初出 |