*最愛にして最恐の男*


 たとえ、屍でも構わないから手に入れたかったのだと………
 そう言ったならば、君は笑うかい、ルルーシュ?


 混乱のおさまらない、黒の騎士団の旗艦イカルガ。蜃気楼で逃亡した“ゼロ”を追った数名が、ナイトメア諸共全員海へと落ちると言う、奇妙な事態に、追撃の手をどこまで伸ばすかで、言い争いをしているようだった。
 そんな騒々しい風景を見下ろしながら、一人、外交特使としてこの艦を訪れた神聖ブリタニア帝国宰相、シュナイゼル・エル・ブリタニアは、落胆の溜息をついた。
「殿下、どうかしましたか?」
 副官のカノンが、不思議そうに問うのに、苦笑する。
「いや、こんな烏合の衆を、あの子はよく纏めていたと思ってね」
「それだけ、ルルーシュ殿下の指揮がお上手だったと言うことでは?」
「そうだね。あの子は子供の頃から頭がよかった」
「ご兄弟姉妹の中で、唯一殿下を悩ませるほど?」
「ああ」
 幾度も勝負を挑んできた、チェス。一度としてシュナイゼルを負かす事は出来なかったが、何度かひやりとさせられたことがあったのは、事実だった。年が離れていたが、それほどに子供の頃から聡明で、そして、非常に優しい弟だった。
「全く、この艦の人間は皆、愚かだね」
「あらあら。殿下がそれを言っては、あまりに可哀想では?」
「私は事実を告げただけだ。真実は、告げていないけれどね」
「欠片を繋げただけの事実でしょう?全貌は決して、教えてあげてはいない」
「おや。君もそれに加担してくれたじゃないか」
 楽しそうに微笑む上司に、カノンは軽く肩を竦めるだけにとどめる。それなりに楽しい仕事だったのだとは、口に出して言うことはない。
「知ろうと思うことは、人間の欲求だ。私はそれを叶えてあげただけだ。そして、そこから更に知ろうと、真実を掴もうとしなかったのは、彼らの勝手ではないかな?」
「それで、この後はどうするんですか?」
「勿論、特使としての仕事は終わったからね」
「帰るんですね」
「彼らは約束を果たせなかった。私たちが無事に離脱したら、すぐに宣戦布告を出してくれ」
「黒の騎士団殲滅、ということでいいんですのね?」
「構わないよ。あの子はもういないのだからね。壊していい」
「本当に、興味はルルーシュ様にしかないんですね」
 穏やかに微笑んで、そうだよ、と呟く。有象無象のイレブンの動きから眼を逸らし、船へと戻るべく、歩き出す。
「早くあの子を捕まえないとね」
「これ以上の犠牲を出さないために?」
「違うよ」
 半歩後ろからついてくるカノンを振り返り、微笑む。
「鳥籠に、閉じ込めるためだよ」
 その、珍しく愛の篭った、けれど酷薄な笑顔に、カノンの背筋が凍った。


 早く、君を捕まえなくてはね、ルルーシュ。
 そして、二度と飛び立てないようにその羽を切り落とし、鳥籠に閉じ込めなくては。








シュナイゼルにとってルルーシュのことであり、ルルーシュにとってのシュナイゼルのこと、です。
黒の騎士団を騙したのがルルーシュを手に入れるため………
そうとでも無理矢理考えたい!!
シュナイゼル様には真実ルルを大事に、大切に、愛していて欲しいです。




2008/8/24初出