*切なる願い*


 海面へと着水したアヴァロン。いまだ戦闘の続くその只中へ避難する、などと言うことは到底出来るはずもなく、沈没の心配がないと言うだけ安全だと、今は各合衆国代表とアヴァロンに元々いた者達とが、混在している状態だった。
 上空では未だシュナイゼルの軍とルルーシュ皇帝率いる軍が火花を散らし、フレイヤこそ撃たれないものの、最早誰が敵で、誰が味方なのかわからぬほど、混戦していた。
 そんなアヴァロンの中、海面を臨む事のできる場所に、咲世子と、ロイド・アスプルンド、セシル・クルーミーがいた。
「ロイド先生!」
「あっれぇ〜、ニーナ君、無事だったんだぁ」
 そこへ、小走りに駆けてきたニーナ・アインシュタインが合流する。
「はい!ルルーシュとスザクが、成功したんですね!?」
「みたいだよぉ」
「よかったぁ………」
 安堵に胸を撫で下ろすニーナの頭を、セシルが撫でる。
「フレイヤの無効化、貴女もよく頑張ったわ」
「………いいえ。私の責任、ですから」
「ゼロが憎くないの?君は。ゼロはルルーシュ様だよぉ?」
「それとこれとは、違います。確かに、フレイヤを造った直接の原因は“ゼロ”で“ルルーシュ”だけど、造ろうと決めて造ってしまったのは、私だから」
「あっはぁ〜強いんだね、君は」
「強く、なんて、ないです。でも、ルルーシュとスザクは………」
「うん。死ぬ気、だろうねぇ」
「ロイドさん!」
「だぁって、最初からそう言う計画でしょ?ねぇ?」
 ロイドが、少し離れた場所に立つ咲世子へ視線を向ければ、一つ彼女が頷く。
「恐らくは」
「ね?」
「ね?じゃないです!あんな…まだ、子供なのに!」
「せっかくフレイヤを無効化して…あの二人がいたから、出来た事なのに………まだ、フレイヤは残ってます、多分」
「だろうねぇ。あの人が全弾撃ち尽くす、なんて愚を冒すとは思えないからねぇ」
 しみじみと呟くロイドが、だらりと手すりに腕をかける。
「フレイヤとギアス、か。世界征服するだけなら、よっぽどフレイヤの方が手っ取り早いよねぇ」
「ロイドさん………」
「でも、ルルーシュ様はフレイヤを選ばなかった」
「確かに、世界を手に入れるだけなら、フレイヤで殺すと脅す方が時間も短縮できると思います」
「ニーナちゃんまで、そんな怖いこと言わないで!」
「事実、そうでしょ?直接目を見なきゃかけられないギアスで世界中の人間を服従させるぅ、なんて、到底無理!!僕だったらフレイヤ選ぶなぁ」
「………ロイドさん、もしかして、拗ねてるんですか?」
 セシルが不思議そうに問えば、更にだらりと体を凭れさせるロイドが、ため息をつく。
「なぁんでスザク君なのかなぁ、心中相手」
「心中って………」
 ニーナが呆れるように眼を丸くすれば、沈黙していた咲世子が口を開く。
「ジェレミア殿に、『騎士道に殉じるか』と言われて、私は答えませんでした。でも、最後をルルーシュ様の側で、と望むこの心は、決してギアスで操られたものではありません」
「だろうねぇ。あぁあ!僕も側にいたかったなぁ、ルルーシュ様の」
「どうしてなんですか?」
「だぁってさぁ、憧れだったんだよ?ルルーシュ様の騎士!」
「科学者は騎士にはなれませんよ」
「なれないけどさぁ、憧れるだけなら自由じゃないか!」
「拗ねてるんですね」
「そうなんです。拗ねてるんです。スザク君の馬鹿やろー!!」
 叫ぶロイドに、ニーナが頷く。
「馬鹿です、二人とも。世界を敵に回して死んでいく、なんて」
「虐殺皇女の名前が響かなくなるくらい、自分の悪名を高める、なぁんて言ってたからね、ルルーシュ様」
「そうなんですか!?」
「そ。知らなかったぁ?ルルーシュ様、ユーフェミア様と仲良かったんだよ。コーネリア様もそうだけど、仲は良かったはず。だから、じゃないの?」
「………やっぱり、馬鹿、二人とも!何で、何にも言わないの!?」
 ニーナの叫びに、セシルが眼を伏せ、ロイドがため息をつく。言っても仕方のないことだと、覚悟を決めた二人には届かないのだと、わかっていても馬鹿だと、罵りたかった。
「全くさぁ、スザク君ばっかりかっこつけちゃって。ルルーシュ様を守りたい、って思うのは君だけじゃないんだぞー!!と」
「私も、ルルーシュ様をお守りしたいです!」
「私、私は…二人に馬鹿って言いたい!」
「ちょ、三人とも落ち着いて!今は抜け出してきてるのに、そんな大声で話したら…」
「あれだけ叫んでおいて。今更見つかったって構うもんかー!」
「ロイドさん!」
 声の反響する廊下でわぁわぁとわめくロイドに、セシルが慌てて手を振る。
「もしも死んだりしたら、あの世でユーフェミア様に叱られるんだからー!!」
「あ!それいい!僕一票!」
「ですよね!ユーフェミア様に引っ叩かれればいいと思います、二人とも!」
「ん〜ユーフェミア様引っ叩いてくれるかなぁ」
「してくれると思います!きっと!」
「シャーリー様ならきっと、思い切り引っ叩いてくれると思います」
 咲世子の発言に、ロイドとセシルが誰?と言う反応をするが、ニーナは大きく頷く。
「やってくれると思います、シャーリーなら」
「ですよね」
「はい!シャーリーとユーフェミア様に引っ叩かれちゃえー!」
「まだ死んだって確定してないから!」
 セシルの言葉に、ニーナが叫ぶ。
「死んだとしたら、です。勝手に死ぬなんて、許さないんだから!きちんと生きて、帰ってもらわないと!」
 必ず、生きて、帰ってきなさいと、願いを込めて叫ぶ。
 貴方達が生きる事を望んでいる人間が、少なくとも、ここに四人だけは、いるんだから!と、心中で呟いたニーナの思いは、その場で海を見る四人に共通した思いだった。
 死ぬよりも、生きて欲しい、どんなに辛くたって………
 必ず、生きて、帰ってきて。








最終回のラストを生き抜いて終わって欲しい!
そんな管理人の、ルルーシュとスザクへの切なる願いです。
もしも死んであの世に行ったら、ユフィとシャーリーに怒られるといいです。
「何でこんなに早く来るの!?」「早すぎますわ!!」って。
本当に、生き残って、二人とも………




2008/9/23初出