*往く道*


 私は、往くよ………


 正しいと思える道を、常に選んできた。
 定めた大事な主のために、立て直したいと望んだ国のために、愛しいと思った唯一人のために。
 なのに、この手は結局、助ける事が出来なかった。
 崩れ落ちるその体を受け止めるために腕を伸ばす事もできず、走り寄る事も出来ず、せめてその名前を口にのせること、それすらも………
 正しいのだと、そう思ってきた。たとえ道を別とうと、目指すべき世界は、未来は、同じ形をしているだろう、と。
 けれど、違った。目指すべき世界、未来のその形はあまりにも大きく、遠く、遙か彼方にあるかのような、丸く確固とした姿をしたものだった。
 誰もが自らの進む道を、将来を見詰めて不安になる中、その視線は自らの進む道も、将来も描いてはいなかった。ただ、世界が平穏であれ、平和であれ、と。
 そこに、己の姿がなくとも構わないとまで、固められた決意。
 誰が、崩せるだろう。誰が、その意志を違えられるだろう。その手を掴めば、抱きしめればとめることが出来たなどと、到底そうは思えない。
 それでも、今、穏やかに時の流れる世界のどこにも、いないのだと言うそのことが、涙も流せないほどに苦しく、悲しい。
「ルルーシュ………」
 悪逆皇帝と呼ばれ、虐殺皇女の名前よりもなお悪名を轟かせたその名前は、まるで忌み言葉のように、誰からも呼ばれることがない。
「………ルルーシュ………」
 幽鬼でも構わない。それでも逢いたいのだと、心が軋む。零れない涙が、心の中で血を流す。
「何故………何故………」
 何故、如何して、その往く道に、私もともに連れて行ってはくれなかったのだと、恨む心が嘆く。


 悪逆皇帝の死に、心の内で涙を流した一人の男が、ひっそりと病の床で息を引き取り、親しい者達が涙に暮れるその様を見遣り、そっと、嘆息する影。
「全く………余計な心配をしなくても、あの男の魂の往く先は、お前のところだろう、ルルーシュ?」
 長い翡翠色の髪が風に靡き、柔らかく細められた琥珀色の瞳には、慈愛がこめられていた。








星刻とルルでR2最終話後。
少しバッドエンディングっぽい雰囲気ですが。
これとはまた違ったハッピーな話も考えていますので、早めにお披露目できるといいな、なんて思っています。




2008/11/29初出