*二人の夜*


 かちり、かちり、かちり、かちり。秒針が音を立てて深夜零時を過ぎて、日付が変わる。それを眺めて、ルルーシュは深く息を吐き出した。
「終わらなかったな」
 目の前に広げられた、書類の束。部下には休むよう言いつけたが、ルルーシュは休むわけにはいかない。今日中………いや、日付が変わってしまっているから、正確には明日の朝までに、これらの書類を完成させなければならない。
 と、突然開いてあったパソコンの画面に、見慣れた顔が映る。それが通信だと気づいて、椅子を動かした。
『やあ、ルルーシュ』
 画面の中で微笑むのは、義兄のシュナイゼルだ。
「何の用ですか、兄上?」
『今日が何の日か、わかるかい?』
「わかりますよ。クリスマスでしょう」
『そうだね。クリスマスパーティーには参加しないのかい?確かコーネリアが開くと言っていたが?』
「ええ。ですが、私に仕事を大量に与えたのは兄上でしょう?終わると思っているんですか?」
『君ならできると思っているから任せているんだよ』
「評価していただいてありがとう御座います」
『そんな君に、クリスマスプレゼントをあげるよ』
「一体、何ですか?」
 まさか、まだこれ以上の仕事を与えるとか言い出すのではないだろうな………と、ルルーシュは眉間に皺を寄せる。
「私だよ」
 と、真後ろから声がして、ルルーシュは驚きで声を失った。真後ろは、テラスになっている。窓は確かに開けていたが、人の気配などしなかったはずなのに。
「お疲れ様、ルルーシュ」
 後から伸びてきた腕が、そっと、ルルーシュを抱きしめた。
 その温かい腕にほっとすると同時に、ルルーシュの中に当然の疑問が浮かんでくる。
「兄上、お仕事はどうされたんです?」
「勿論、終わらせたから戻ってきたんだよ」
 にこりと微笑む兄の笑顔に、少なからず胡散臭さを感じて、ルルーシュは溜息をついた。
 シュナイゼルは、ブリタニア帝国の領土拡大のための、侵略戦争をしにいっていたはずだ。一月はかかるだろうとの予測が立てられていた制圧を始めたのが、確か二週間前だったはずだが、この分では、大方の仕事は終えたけれど、瑣末な事務処理などは全て部下任せにして戻ってきたのだろうと、推測できた。
 ルルーシュの溜息に、シュナイゼルは抱きしめていた腕を解いた。
「君と、クリスマスを過ごしたくてね」
「録画した映像を使うなんて、卑怯ですよ」
 何故、途中で気づかなかったのか。通信の映像が、録画された映像だと言うことに。既に、通信画面は自動で消えている。
「君がよく使う手だろう?」
「テロリスト相手に、です。家族には使いませんよ」
 言いながら、ルルーシュは開いていたノートパソコンの画面を閉じる。シュナイゼルは、開け放しだった窓を閉めて、鍵をかけた。
「それは、すまなかったね。仕事はどうだい?」
「終わると思っているんですか?まだ、かかりますよ」
「そうか………なら、もういいよ」
「え?」
「それらはね、別に、何も今日中に必要な書類ではないんだ」
「なっ………騙したんですか!?兄上が出発前に念を押していくから、俺はっ!」
「はははっ、いや、まさか君がこんなに必死に仕上げてくれているとは思わなかったからね」
「っ………俺の睡眠時間を返してください!」
 勢い余って椅子から立ち上がったルルーシュを、シュナイゼルが正面から抱きしめる。
「君をね、一人にしたかったんだ」
「は?」
「きっと、仕事がなければ君は、リ家のパーティーへ出向いただろうね。だから、君を一人にするには、仕事をさせるのが一番いいと思ったんだ」
「何の為に?」
「君と、二人でクリスマスを過ごすために」
「………まさか、そのために帰ってきたんですか?」
「勿論」
 満面の笑顔のシュナイゼルに、ルルーシュは驚くと同時に呆れて、小さく吹き出した。
「兄上は、時々子供みたいですね。俺と一緒にクリスマスを過ごして、何が楽しいんです?」
「楽しいさ。恋人と過ごすクリスマスはね」
 言うなり、シュナイゼルは細いルルーシュの体を横抱きに抱えあげ、歩き出す。
「さ、仕事は終わりだ。クリスマスを楽しもうか」
「何も用意がありませんよ。ケーキもシャンパンも」
「構わないよ。君がいれば、ね」
 軽く額をつけて、そっと、唇を重ねた。









兄弟でラブラブ、がテーマでした。
って言うか、ルルを甘やかす兄様を書きたかったんです。
そしてすいません。18禁にはできませんでした…時間が足りなかった。
いつかリベンジしたいと思います。是非!!
ルルに甘々なシュナ様もたまにはいいと思います。




2009/12/25初出