*指きり*




 ゆびきりげんまん
 うそついたら
 はりせんぼんのます
 ゆびきった


 日に焼けてざらついた畳。
 その上にあるもの。
 窓玻璃の向こうから射し込む日の光を受けて、キラキラと輝く硝子玉とおはじき。
 赤、茶、緑、萌黄などの色の縮緬布に包まれたお手玉と、破れた穴から飛び出た小豆。
 脱ぎ捨てられたまま悠久の時の中で忘れられたような姿の赤い帯と、透かし模様を入れたような凝った柄の赤い着物。
 奇妙に縒れて瘤の出来てしまった糸の先には赤い玉、そして反対側には白木の十字型…剣玉。
 黒い髪を乱れさせて横たわる、おかっぱ頭の無表情な人形。
 まるで、その人形の様を模したかのように、光のない虚ろな黒瞳を、年輪の刻まれた木板を使った天井へ向け、呼吸をしている少年。
 死装束のようにも見える白の長襦袢の裾は乱れ、袖は捲くれて、着物の白に勝るとも劣らない白い腕と足が剥き出しになり、日に当たっている。
 かさりと、葉が風に揺れて擦れるような音がしたかと思うと、少年は口の端を歪めてあげると、にぃっ、と笑った。
 そして、日に当たっていた方の腕をゆっくりとした動作で持ち上げると、何かを手招くように手首を動かした。
 だが、暫くそうしていると疲れたのか、ぱたりと大きな音をさせて腕を落とし、今度は口を動かした。
「そんな所に突っ立っていないで、此処へ来たら如何だい?」
 その時、初めて少年の瞳に、光が宿った。


 白く、細い体。
 手を伸ばして、折れそうな手首に触れる。
 血管が浮き出ているほど白いそこに手を触れると、熱く、強く脈打つ鼓動。その生命の強さは、その外見とは裏腹なものだった。
「前から言っているだろう?」
 気だるげに、淡々と言う。それは、怒っているようにも、呆れているようにもとれた。
「この家にはどうせ僕しかいないんだから、表からだろうと庭からだろうと、好きに入ってくればいい、って」
「君しかいないから、だ」
 無表情に言ったその顔の中の黒い瞳が、熱を帯びたように潤む。
「ねえ。覚えている?約束を」
「ああ」
 手首に触れた手が、そのまま指を重ねて絡める。
「覚えているよ。大切な君との、約束だ」
「うそついたら、はりせんぼん」
「ああ」
「ふふ…嗚呼…痛いよね。痛いだろうなぁ」
 風が吹く。柔らかい風が、小豆の一つを転がしていく。
 長い指がそれを摘み、ころころと笑う口の中へと、放り込んだ。
「まずいよ」
「なら、口直しを」
 顎に指をかけ、心もち上げさせ、唇で唇を覆う。
 小さな笑い声が零れる。その手には、針が握られていた。


 ゆびきりげんまん
 うそついたら
 はりせんぼんのます
 ゆびきった







指きりげんまん。約束は守らねばなりません。
二人だけの、秘密の約束があるのです。
私たちには知りえない、秘密が。
そして、それを破ったならば、罰を受けねばならないのです。
最初の情景描写の書かれたメモを発掘したので、書いてみました。
多分、字の感じから、学生の頃に書いたものではないかと。
きっと、授業中に書いたものだと思います。何やってるんだ、学生の私。




2007/11/3初出