切れ味のよさそうな剣の刃先が、藤堂へ向けられる。相変わらずラクシャータはけらけらと笑い、カレンはその横で夢の中へと旅立ち、千葉は藤堂を背中から引っ張り、藤堂に抱きついたルルーシュをロロとジェレミアが必死に引き剥がそうとしている混乱の中、比較的まともに動ける朝比奈が、宥めるように星刻に近づいた。 「まあ、まあ。お酒が入ってるんだし、大目に見て上げなよ」 「問答無用だ」 剣を構えなおす星刻に、ああ、これは本気で怒っているな、と判断した朝比奈は、大人しく引き下がり、未開封のボトルを一本開けた。 剣を掴んだまま近づいた星刻が、藤堂の首筋に剣先を向ける。 「すぐに離れてもらおうか」 「むしろ被害者はこちらだ。彼女を離してくれないか?」 お手上げだとでも言うように、藤堂が両手を頭の横に上げる。 と、ようやく側に立っている星刻に気づいたのか、ルルーシュが藤堂から手を離した。 「星刻?」 「君は何をやっているんだ?お酒は呑むなと言っただろう?」 以前の経験を思い出して言う星刻に、けれどルルーシュはわけがわからないといった風に首を傾げ、ロロを振り返った。 「ロロ〜お酒」 「だめだよ、姉さん。もうだめ」 「ジェレミア」 「いけません」 頑として譲らない二人は、ルルーシュの側にある酒瓶を全てどかし、グラスも遠ざけてしまう。その様子を見たルルーシュが、ぷくりと頬を膨らませると、ぽろぽろと涙を流した。 「姉さん!?」 「殿下!?」 「ロロも、ジェレミアも、俺が嫌いなんだ………」 「そんなことないよ!大好きだよ!」 「ロロの言うとおりです!」 「じゃあ、お酒」 渡せとでも言うように手を出してくるルルーシュに、それでも二人は首を横に振った。 そんなルルーシュの腕を、星刻が掴んで立たせる。 「ルルーシュ、あまり周りを困らせるな。君の酒癖は悪すぎる」 「………ん?」 「どうした?」 ルルーシュが腕を伸ばして星刻の体に抱きつく。手で肩や腕、背中に触れたかと思うと、改めて抱きつく。 「うん。これだ」 「何がだ?」 くすくすと喉奥で笑うルルーシュが顔を上げたかと思うと、星刻の頬に顔を近づけ、口づける。 「ルルーシュ………」 「姉さん!」 「殿下!」 悲鳴のような声がロロとジェレミアからあがり、朝比奈は軽く口笛を吹く。はやすようにラクシャータは手を叩き、藤堂と千葉は口を開けていた。 「落ち着く」 「落ち着くならそこではなく、こちらで落ち着いてくれないか?」 言いながら、星刻はルルーシュの体を横抱きに抱き上げる。 「ほら、腕を…」 「んー………眠いぃ」 「わかっている。だから、ほら」 促してルルーシュの腕を自分の首へ回させ、抱き上げた体を抱えなおす。そして、そのまま星刻はルルーシュを連れて部屋を出て行ってしまう。 「あんな、あんなの…僕の姉さんじゃないよっ!!」 涙眼になって叫ぶロロが、自棄酒とばかりに、側にあった酒瓶を掴む。その横では、ジェレミアが左右に揺れている。相変わらず笑いっぱなしのラクシャータの横で、朝比奈は「いいなぁ、ラブラブで」などと呟き、藤堂に至っては落とした酒盃を震える手で持ち上げ、二人の出て行った部屋の入口を呆けたように見ている千葉は「いつか私も………」などと、ちらりと藤堂を見る。 そして、数分後、戻ってきた星刻が、腰に下げた剣を鞘ごと引き抜いた。 「さて………先刻見たものを全て忘れるか、忘れるのが嫌だと言うのならば、今宵の記憶が全て消滅するまでその頭を殴り続けよう。どちらがいい?」 ひんやりとした何かが背筋を落ちていくのを感じた全員が、満場一致で忘れます!と、叫んだとか、何とか……… そして、その後、ゼロことルルーシュに酒を飲ませようとする黒の騎士団員は、一人もいなくなった。 その頃、合衆国中華、朱禁城の再奥、天子の寝所。 運びこんだ畳の上に、三組の布団。灯された光の中で、話し声が三つ。 「最近、ルルーシュ様と星刻様はどうですか?」 「二人とも仲が良くて、ずるいと思うの」 「まあ!夫婦の仲が良いのはいいことですわ。ね」 「でも、ときどきけんかするの」 「あら。日本では、喧嘩するほど仲が良い、と申しますのよ」 「そうなの?」 合衆国中華代表、天子。合衆国日本代表、皇神楽耶。そして、長い黒髪に紫色の瞳の少女。神楽耶の提案で、今宵この良き日にお泊り会をしましょう!と言うことで、三人は天子の寝所に集まっていた。 「それで、天子様に恋のお話はございませんの?」 「な、ない!そう言う神楽耶はどうなの??」 「私ですか?御座いませんわ。良い殿方がいらっしゃらないのですもの」 溜息をつく神楽耶に、きょとりと紫色の瞳を大きく瞬いた少女が、首を傾げる。 「とのがたって、どういういみ?」 「男の方、と言う意味ですわ。はぁ〜ルルーシュ様が羨ましいですわ」 「かあさま?」 「ええ。星刻様はお優しいし、お強いし、まさに理想の殿方ですわ!!」 今、蓬莱島で何が起きているかを知らない三人は、更けていく夜の間中、眠い瞳を擦りながら、他愛もない話に興じた。 睡眠不足は美容の天敵ですわ、などと言いながら、それでも、年下の少女二人を友人と出来た巡り合わせと幸運に、神楽耶は感謝していた。 ![]() 以前お酒話を書いた際に、ギャグっぽいお話のネタを頂きまして。 これだ!!と思って書いたものです。 ネタ使用の快諾を頂きまして、本当にありがとう御座います。 最後の三人娘の会話は書いていて楽しかったです。絶対目の保養だと思う。うん。 ロロの頬はマシュマロだと信じて疑ってません。 皆きっと明日の朝には、全て綺麗さっぱり忘れてくれていることでしょう(笑)。 「酔郷」の意味は酒に酔ったよい気分、と言う意味です。皆醒めちゃってるでしょうけど(苦笑)。 ? 2008/12/2初出 |